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昨日と同じく、寝たり、起きたり、の夜。眠る時間が早すぎるせいか、夜中12時ごろから活動している、という状態だ。夜じゅうテレビもやっているし、ぼーっと起きているのもなかなかいいものだ。本を読んだり、日記を書いたりしていると、もうすっかり朝。さぁて、朝食をとりに行こう。焼き立ての食パンをほおばり、コーヒーを片手に辺りを見渡すと、思った以上に日本人が多かった。でも、マナーのいい人たちばかりらしく、ゆったりとくつろげる。 外は雨が降っていた。今日は王宮めぐり、エリザベートの足跡をたどるんだ。芸術をこよなく愛した美貌のエリザベート。心を閉ざし、旅に安住を見出した彼女、でも皇帝との愛は本物だったんだろうな。 まず、王宮の前にウィーンのシンボル、シュテファン寺院へ足を運ぶ。天へと高くのびる塔は鋭角的で、ゴシックそのもの。内部はあまり広くなく、派手さも感じられない。彫刻による装飾が多く、どちらかといえばイタリア的かな。奥にはステンドグラスが光っている。ちょうど日曜日ということで、ミサが行われていた。説法の合間に、パイプオルガンとともに歌声が響く。改めてキリスト像を見ると、なんともいえない気持ちがこみ上げてくる。苦悩に満ちた暗い表情、傷つけらた体。どのようにして、この「弱者」が神になりえたのか。キリスト教については、美術史の授業や本で何度か触れたことがあるが、やはり理解できていない部分の方が多い。ここで祈っている人たちは、何を思い、何を語りかけているんだろう。この寺院のカタコンベには、ハプスブルク家の人々の心臓以外の内臓がおさめられているという。そう思うと、一歩一歩進む足どりさえ、感慨深い。 寺院を出ると、雨はほとんどやんでいた。それでもかなり冷えるので、いったんホテルまで戻り、マフラーと手袋をとってきた。準備満タン、いよいよ王宮めぐりだ。幾度の増改築のため、入り組んだ造り。四方に広がる荘厳な建物を見ると、当時の時代がしのばれる。まず、旧王宮を目指したつもりだったが、奥のスイス宮にたどりついた。美しい歌声が聞こえる。何と、日曜のミサでは、この王宮礼拝堂でウィーン少年合唱団の歌声が聞けるらしい。私が着いた時は、もうほとんど終わりかけだったけど、少しでも聞けて良かった。美しく澄んだ声が心に響く。礼拝堂自体が上品で美しいものだった。横の部屋には小さな宝物館みたいなものがあり、無料で見ることができた。きらびやかな道具類。中でも、花のつまった見事な箱(入れ物?)に目がいく。花はほとんど枯れてしまっているが、かえってその風情がよかった。 どっしり構えたスイス門を再びくぐり、いよいよ旧王宮、すなわち銀器コレクション、並びに皇帝の部屋へ。入り口へ向かう空間には、高い天井や彫刻による装飾、もうこの部分だけでも十分宮殿に値する。共通チケットを買い、まず銀器コレクションへ。金、銀の食器はもちろん、色とりどりの華やかなものまで、ずらっと並べられた部屋が続く。あまりに現代的な色鮮やかさに、まるで高級デパートの食器コーナーへまぎれこんできたよう。花や動物をしらったもの、赤、青、緑と鮮やかな色調で統一されたデザイン、横に長く伸びるテーブルを占めるしょく台など、貴族たちの晩餐会が目に浮かぶようだ。神秘主題やロココ調など、お皿の絵そのものが絵画を見ているようで楽しかった。 銀器コレクションを越えると、皇帝のアパルトマンへと続く。入口への階段を上る瞬間からすでに、空想の世界へと入り込んでしまった。きっと、フランツ・ヨーゼフやエリザベートも歩んだ足取り・・・。イタリアやフランスと違って、ごてごてした装飾や天井画は少なく、赤や茶色が基準の深みのある空間。すべての部屋に大きな鏡があって、部屋が広く見え、まさに王家にふさわしい。シャンデリアが静かに輝いている。今、まさに彼らの生きた場所に来ているんだ。私が心から憧れる、エリザベートの肖像画があちこちに飾ってある。この世のものとは思えない美しさ! フランツ・ヨーザフの書斎には格調高い机が置かれ、壁にも、机にも、エリザベートの姿が飾られている。、エリザベートが暗殺される最後の日まで、心から彼女を愛した皇帝の姿が目に浮かび、じんときた。皇帝の寝室もそれほど広くなく、どちらかといえば質素。エリザベートの寝室の方がずっと広く、大きな鏡台が置かれている。どちらの部屋にも、ベッドは人一人がちょうど眠れるぐらい小さめで、特に装飾もない。マリー・アントワネットの寝室と比べ、なんと落ち着いた雰囲気だろう。エリザベートの部屋には、体操用具、つり輪などが見られ、常に美しさを保とうとした彼女の努力がうかがえる。
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レセプション・ルーム
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フランツ・ヨーザフの書斎 |
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ダイニングルームだろうか、小さなテーブルにはパンや飲みものなど、朝食のサンプルが添えられていた。その横の写真(絵?)には、フランツィとシシィ(エリザベート)が仲良く食事している姿があり、背景はまさにこの部屋そのもの。そうなんだぁ、こうしてここにくつろぐ彼らがいたんだ。そばにエリザベートの彫像があった。品良く、格調高い。なんてすらっとして、細いウエストだろう。レセプション・ルームや控え室など、数々の部屋を進むにつれ、彼らの生活が伝わってくる。謁見室などには日本の漆器もあり、妙に誇らしい気がした。 十二分に満足して、ショップに立ち寄る。『シシィ』という本、そして彼らの絵が書かれたポストカードを買った。それにしても、エリザベートに関する本、品物の多いこと!ウィーンの誇りなんだろうなぁ。
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![]() 新王宮の外観
旧王宮を出て、新王宮へ向かう。旧王宮、新王宮、外周門に囲まれた広大な空間からの眺めは、まさに壮麗なる極みで、ただただ圧倒されるばかり。ああ、ヨーロッパにいるんだ、とじみじみ実感できる。オイゲン公の騎馬像がたくましく空を仰いでいる。旧王宮と新王宮は実際にはつながってるんだけど、明らかにガラッと外観も変わる。旧王宮の方はうすいクリーム色系の色調で、むしろまるで高級ホテルのよう。新王宮はアーチ型中央がくぼんだ形で、白一色。ずらっと続く円柱に、人物の彫刻、ギリシャ神殿をより華やかにしたようで、本当に美しい。ルーブル宮と同じくらい、私の心にぴったりくる建物だ。内部には武器、古楽器コレクション、エフィソス博物館があり、どれもつながっている。
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全く、内部も夢のような白亜の世界。吹き抜けのような広い空間に、上品で美しい彫刻的な装飾。もうため息が止まらない!階段を一段上がるごとに、一歩ずつ宮廷の世界へと導かれる。大変明るく、天井も高い。人影もまばらで、自分の足音だけが宮殿じゅうにこだまする。私、ほんとにほんとにここが好き!宮殿に住むとしたら、絶対にここを選ぶもん! 武器博物館では、甲冑や剣、盾等が重々しく並べられている。「武器」というものの、どれも豪華な装飾がほどこされ、美術品と呼んだほうがふさわしいかな。楽器コレクションでは、入口で借りたイヤホンをつけて足を踏み入れる。ドイツ語は分からないけど、耳からは数々の楽器の奏でる音楽が聞こえてくる。展示されている楽器はそれこそ様々で、こちらは部屋の装飾も重みがあって荘重だ。ピアノにも、イスにも、じっくりと装飾がなされていて、まるで高級家具そのもの。どんな音色を奏でていたことだろう。 最後に、エフィソス博物館へ。ここだけは部屋ではなく、ふきぬけの広い踊り場のようなところに展示されている。19c末の小アジアの、古代ギリシャ都市エフィソスの品々。そのすばらしさったら!もともと遺跡物には弱い私、しかもこの白い宮殿に無造作に並べられた大きな白い石のかけらが見事に溶け込んでいる。発掘当時の遺跡の写真等もあり、フォロ・ロマーノを思い出させる。古代都市エフィソスのレプリカも興味深かった。赤茶けた広大な山岳地帯に、ぽつりぽつりと神殿や城壁がたっている。はるか古代、機械も何もそろっていなかった時代に、見事に発達した文明。人間の営みのすばらしさが痛感される。新王宮内部の様子があまりに美しく、私にとって心落ち着くものだったため、なかなか立ち去れなかった。あまりにもうろうろしてたため、変なやつと思われていたかもね^^;。 最後に、スイス宮の宝物館を訪れた。こちらは……、まさに贅を尽くした王家の宝物庫。薄暗い部屋の中で、数々のコレクションがほのかなライトで照らされ、否が応にも、厳かにたたずんでいる。ずっしりと重みのありそうな衣装やマント、王家の紋章が織り込まれ、キラキラと輝いている。この見事な王宮内を、この見事な衣をまとった貴族たちが行き来してたんだ。すそが後ろまで広がった赤い衣装、まさに王の貫禄であふれている。数え切れないほどの宝石が散りばめられた王冠、王勺、装飾品等、本当にぞっとするほど美しい。歴史的、血統的価値はもちろん、宝石自体の価値までを思うと、思わず倒れそうになる。王家の絶大な権力がしのばれ、胸が苦しくなるほどだ。ここでも、またポストカードを買う。 さて、もうすっかり夕方。教会へも行こうと思っていたけど、今日はこの辺で引き上げよう。数々の歴史、美に触れ、頭も体も陶酔しきったせいか、体中の力が抜けたよう。心地よい疲れとともに、ホテルへ戻った。ポストカードをじっくり眺め、ほっと一息。すっかり心をおちつけて、ぐっすり眠る。。。。。 |