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さらさらと雪が降る中、夢に見たシェーンブルン宮殿へ出発した。ヴェルサイユ宮殿に並び、私にとって「これを見るまでは死ねない」憧れの宮殿のひとつ。シェーンブルン宮殿はウィーン市内にあるので、それほど遠いというわけではないのだが、U−バーンを3回も載り変えるなんて、今回の旅の中では十分"遠出"に値する。U−バーンは地下鉄とはいっても、しばしば地上を通ることもあり、街の景色を楽しむことができる。窓かられんが色のひび割れた壁や西洋調の建物が流れ、何ともいえない情緒だ。 駅を降りてすぐ、うすい黄色の建物が続いている。もうこれがシェーンブルン宮なんだろうか。雪の中、さらに進んでいくと、入口の門があった。「うわあ、きれい・・・!」思わす声をあげてしまうほどの美しい宮殿がそこにあった。これが、マリア・テレジアがこよなく愛したハプスブルク家の夏の離宮。今までもいろんな宮殿を訪れ、歴史を感じる"美しさ"を感じてきたが、このシェーンブルン宮は今まさに作られたかのような、目をみはる美しさ。四方に広がるマリア・テレジアンイエローの空間、この色は実際に目で見てこそ良さが分かる色調だろう。入口をくぐり、いよいよ宮殿内へ。グランド・ツアーのチケットを買ったが、特にガイドがいるわけでもなく、日本語のパンフレットをもらっただけ、じつくり一人でまわれそうだ。 さすがに部屋の内部、調度類も洗練されていて、まばゆいばかりの美しさ。装飾や色彩が、豪華でありながらもけばけばしくなく、ベルサイユに勝るとも劣らないというのもうなずける。あちこちにかかっている、ハプスブルク家ゆかりの肖像画が、いやがおうにも雰囲気を盛り立てる。皇帝の部屋、エリザベートの部屋、様々なサロン、当時の物語がしのばれて心が少し切なくなるほど。ただロココの装飾、というわけでなく、ゴブランの間、磁気の間、漆の間など、趣深い部屋、また中国風やペルシャ風のサロンなど、オリエンタルな部屋もあり、珍しくもひきつけられる。まさに究極の美の世界! 宮殿を出ると、ほおをつくような寒さ。庭園へ出てみると、枯れ木が続いて迷路のようなものを作っている。はるか広がる庭園、夏であればさぞかし緑が濃く、美しいことだろう。当時の貴族たちも、ここを散歩したりしたんだろうなあ。池もあり、カモも泳ぐ姿がかわいらしい。冬なりの情緒を楽しみつつ、植物園に向かう。途中、リスのような動物がひょっこり顔を出しているのを見た。大きなふさふさしたしっぽに、くりっとした目がかわいい^^。 植物園は外観もおもしろい。入口のドアを開けると、凍り付いた体がとけるように暖かい。湿気に満ちた、草のむっとするにおいがかえって気持ちよかった。色鮮やかな緑に囲まれていると、一足先に春がやってきたようだ。効果音として、動物たちの鳴き声も響いてくる。ずっと、歴史的、美術的価値のものを見学していたから、何も考えずぼーっと植物たちを眺めているこの時間は、何ともいえぬのびのびしたものとなった。小さな滝や池も配されていて、水の流れる音が耳に心地よい。中は3つの部屋からなっていて、気候が違っている。地域で分けてあるんだろうな。緑の中、色鮮やかに咲き誇る花々が目に焼き付き、幸福感でいっぱいになった。チューリップやつつじ、ユリやぼたん、カラーなどの見知った花以外にも、いろんなかわいらしい野の花が咲いている。一番暖かな部屋では、動物たちの鳴き声も野性的で、ジャングルかどこかへまごれこんだよう。 植物園のすぐ前にあるのは、バタフライ・ハウス。中に入ると、まずいろいろ奇妙な植物が広がっていて、なぜかイヤ〜な予感。二重になったビニールの扉をくぐると・・・・・、何と植物園にチョウがひらひら舞っている。たしかに美しいチョウが1、2ひき舞う姿は風情があるが・・・・こんなにもたくさんいるとさすがに気持ちが悪い。「・・・・いやぁ、こっち見ないで!」すべてが自分に向かってきそうな気がして、3、4歩歩いて時点で退散してしまった^^;。 再び庭園を通り、宮殿方向に戻る。途中、池もないのに2ひきのカモが歩いているのを見た。仲良くお散歩中かな?次に訪れたのが、本殿から少しだけ離れた、馬車博物館。歴史を感じさせるいろんな型の馬車がすらっと並んでいる姿は圧巻だ。馬の姿も再現されていて、リアルそのもの。造りも思ったより複雑で、細部まで美しい装飾が施されている。座る部分は意外にせまい。奥には黄金造りのひときわゴーシャスな馬車があって、もはや夢心地だ。 シェーンブルン宮殿を十分満喫した後、中心地へ戻った。まだ時間があるので、例によってケルントナー通りへ。そして、マリア・ヒルファー通りへも足をのばす。おめあては、ヴァージン・メガストア。オペラやコンサートのビデオ、CDを見ていると、それだけでハイソサな気持ちになれる。今回いつも夜はろくに食べてなかったんだけど、今日は珍しく晩餐(?)を楽しみたい気になり、すぐ横のスーパーでパン、発砲ワインを買い、露店で焼き栗を買った。ホテルへの帰り道、栗をつまむと、まだあったかくておいしい。日本のと違って、大きくて皮はパリッとしてやわらかいの。 ホテルのバスでゆったりと疲れをいやし、ほてった体でディナーを楽しむ。ワイングラスに発砲ワインをつぐと、泡のシュワシュワはじける音が気持ちいい。パンも栗もとてもおいしく、ワインと共にほろ酔い加減になってきた。暗くした部屋にはほのかな間接照明のみが光っている。すっかりいい気持ちでベッドに横たわっていると、いつの間にかぐっすり眠っていた。 |