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1997年  3月22日(土)

さて、いよいよウィーンの旅も最終日だ。今日は夜にオペラが控えているので、いつもに増してゆったりしたスケジュールを組んでいる。朝一のフルーツジュースですっきりさわやか。温かいスクランブルエッグで身も心もホットになった。さあ、いざ出発!

今日はウィーンに来て初めての晴天だ。からっとした青空とまではいかないが、たなびく雲の間から水色の空が見える。風は冷たいが、太陽がまぶしいさわやかな朝。まず、ひとつめに訪れるべきは、国立図書館、プルンクサール。図書館とはいえ、本を読むのではなく、見学するために公開されているのだ。全く、宮殿や美術館に勝るとも劣らない豪華さ。木の深い茶色に金の装飾、そして何よりもすばらしいのが天井画。ひときわ広いスペースが、トリックアート的な絵によって立体感を持っている。天使や人々によってのぞきこまれているみたいだ。中2階までずらっと並んだ本も金色で、何とも格調高い。一体何の本たちなんだろう。しまってある本のほかに、色とりどりの絵が入った本がガラスケースの中に開いて展示されてあり、何とも雅やかだ。ただ、床が石造りなので、かなり冷えてしまったな。

ケルントナー通りへ出て、本屋やCDショップ、デパートで体を温める。まだお昼すぎ。本日2つ目のイベント、それはホテル・ザッハーでザッハ・トルテを食べること!世界に名高い高級ホテルに忍びこむのは、かなり勇気がいる。そばをうろうろしつつ、気合を高める。いざ、勇気をふりしぼって入ってみると、中は美しいことには違いないけど、意外にこじんまりしている。何と、ホテルのロビーにあるわけではなく、小さなカフェとして独立していたのだ。客層も、ジーパンの若者などで、かなりカジュアル。席も案内されるわけではなく、「お好きなところにどうぞ」的ニュアンス。ホッとしたような、少し残念なような気持ちで、席につく。思うに、カフェもホテルの道側に沿って、いくつかあるのだろうか。だってあまりに小さいし、旅行者っぽい人ばっかりだもの。

注文したのは、もちろんとっておきのザッハ・トルテ、そして日本でいうウィンナーコーヒー、アインシュペナー。赤を基調とした格調高い内装、壁にはシシィの絵がかかっている。そうして景色にみとれるうちに、運ばれてきた。お水とともに、銀のトレイにのっているのは、グラスに入ったアインシュペナー、もちろん上にはおいしそうにクリームがとろけている。あったかいコーヒーがワイングラスに入っているのがウイーン風で、すてきじゃない?サッハ・トルテにはホイップクリームがそえられていて、上品な感じ。さあ、魅惑のティータイム。いただきます!ガイドブックには、「ザッハ・トルテはなかり甘い」と書かれていたので覚悟して口にしたのだが、とんでもない!何ともいえぬ軽い口当たりで、本当に感激するほどおいしい!上部のチョコレートの部分は確かに濃厚な甘さだが、ホイップクリームと共に口に入れると、この上ない調和を生み出す。日本で食べるザッハ・トルテの方が、実際何倍も甘ったるいよ。アインジュペナーも、濃厚な口当たりがたまらない。ああ、心底幸せ!あまりのおいしさに、あっという間にたいらげてしまった。しかも、トータル100Sで、チップを渡そうとしてもお店の人は笑って受けとらなかった。込みの値段なのかな?

まだ2時前だが、いったんホテルに戻る。マリア・テレジア像のある広場を横切ると、緑が太陽に照らされて何ともすがすがしかった。夕方のオペラをひかえて、ホテルでゆっくりくつろぐ。このウイーンの「我が家」とも、もうすぐお別れだもんね。ガイドブックを開けてオペラのコーナーを読んでいると、胸が高鳴り、次第におちつかなくなってくる。寝転んだり、立ったり、座ったり、テレビを見たりして、ようやく6時半。オペラは7時半からで少し歩くので、出かけるにはちょうどいい頃。

夜はほとんど出歩いていないので、景色が本当にきれいだった。街灯や車のライトがきらきら光っていて、ライトップされた建物。空にはまあるい月まで出ている。オペラ座のまわりには、もう人が集まっていた。思ったよりもカジュアルな服の人もいたかな。上品で華やかな内装にみとれながら、3階まで上がり、コートやカバンをあずける。案内してもらった席につくと、距離はあるものの、舞台の真正面でよく見えそう。少し前にかがむと、オーケストラの前列くらいは見える。そして何とも幸運に、隣に座った席の女の人が、ベルリン在住の、音楽にたずさわっている日本人。歌(オペラ?)をやっているそうで、オーディションのためにウィーンにきて、本日のオペラを勉強のために見に来たそうだ。ヨーロッパの劇場で歌っているなんて、すごいなぁ。普段、海外では日本人はさけるくせに、こんなときだけ現金な私。ドイツ語はさっぱい分からない私に、今日のオペラについていろいろ内容を説明してくれた。

舞台が暗くなり、いよいよ幕が上がる。主役の女性はなかなか若いチャーミングな女性、動きがコミカルでかわいらしい。声もほんとうに美しい。もう一人、アリアドネの方がなかり体格のいい、いわゆるオペラの女性、って感じ。これまた、すばらしい美声。いずれにしても、声に何かがこもっている、ただの声じゃないのだ。まさに、人間の声とは思えない。

幕間休憩の時は、さすがに一人はさみしいな。みんな、シャンパンを飲んだり、サンドイッチを食べたり、ゆったりくつろいでいる。私は、ひたすら内装を鑑賞していた。なんせ、初めてのオペラ体験なので、まだそわそわしている。そして、再び開幕。美しい声や衣装に感動しながらも、途中眠っていたことを、正直にあかしましょう。だって、あまりに気持ち良かったんだもーん。それはそれで、幸せだわ。「オペラ」というものを十分満喫でき、ウィーン最期のすばらしい夜になりました。

ただひとつ、休憩の時に変な(?)韓国人の人に声をかけられ、終わってから飲みに行きましょう、とかなんとかいわれて困ったこと。まあ、落ち着いた感じではあったがやたらしつこい。帰り、1人はちょっとこわかったので、いい感じの日本人夫妻の方に事情を説明にし、一緒に出てもらった。何と、ホテルまで一緒だったのだ。毎年、ご夫婦でオペラ鑑賞旅行に出かけるのだそうな。いい感じでした。

部屋に戻っても、まだあの美しい声が胸に響いている。ああ、満足。本当に今日で終っちゃうのかぁ。ウィーンって、私が思ういわゆる「美しいもの」であふれている。信じられないほど、私の心を満たしてくれる。エリザベートゆかりの、洗練された町。

そして、翌日帰国へ。今回の旅は終ってしまうけど、この思い出は永遠に心の中へしまってしまっておけるから−。