(財)がんの子供を守る会  東京支部HOPE  3周年記念講演会

(2000年5月20日)

講演  「小児がんの子どもたちのトータルケア」

聖路加国際病院小児科部長  細谷亮太先生


小児がんの発生率は成人のがんに比べ珍しく、東京の人口約130万に対し年間200人から300人位であり日本全国では2000人から3000人位です。
25000人に1人の割合になります。

小児がんを病気別でみると、悪性リンパ腫と白血病が全体の5割を占め、次いで脳腫瘍が全体の2割になっています。
成人のがんは、体の表面から触れることのできるところに発生し、環境因子が多いため生活習慣病といわれて予防が可能だといえますが、それに比べて小児がんは病理学的に非上皮性であり表面から触れることができないので、そのため予防することが不可能です。
小児がんの治癒率は1964年頃は50%位でありましたが、現在は急性リンパ性白血病では80%位治癒するようになりました。けれども残りの10%から20%はタ−ミナルを迎えることになり医療者はすべてにかかわっていくことになります。

告知をしている現在は発病して最初にすることは、たくさん話しをすることです。その際には両親にそろって来てもらい、落ち着いた場所で、希望をもってもらうような話し方をするようにし、正確に正直に診断、治療の概要を伝えることがとても大切です。
告知をしていない時代の大原則として、「嘘をつかない」「子どものわかるように」「周囲に気をつかう」といったことが配慮されていました。
そんな中、医療者でない者から何らかの形で病名を知ってしまった子どもたちが、精神的にも、身体的にもよい状態でないことから、1986年頃からきちんと病名を告知することが大切であると考えられるようになりました。
木、家、本人を絵に描くという心理テストをいろいろな時期に実施した結果、10才頃に告知した場合、告知した患児のほうがアクティブになるのではないかと思われるようになりました。また、北里大学病院の告知していない患児と聖路加国際病院の告知をしている患児に木を描いてもらう心理テストをしてもらった結果、告知している患児のほうが適応度があることがわかりました。

小児がんは、最初から治療のスケジュールが決まっています。
体内に約1kgのがん細胞がいると思われ、その数は10の13乗億個位といわれ、それを2年位かけて3個から4個の細胞の数に減らすことで治癒したことになります。
骨髄移植とは、治療的には乱暴な治療です。患児本人の骨髄を全部空にして、新しい骨髄を入れることです。
民間療法は数え切れないほどの数があります。
抗がん剤の副作用は、骨髄抑制、脱毛、吐き気などがありますが、水をたんさん摂取するなどといった、少しの注意で改善されることなどがあります。

病院の小児病棟を病院ぽくしないことは非常に難しいことです。
聖路加国際病院・小児科病棟の年間行事は、お花見、バーベキュー、ピータンパンツアー、ひな祭り、ハローウィン、クリスマス会、豆まきなどがありこのような行事は医者や看護婦だけではなく保母やその他のスタッフの協力によって可能になっています。
小児がんの患児は、人混みのなかは別ですが、外出することはそんなに危険ではありません。
行事などのイベントの際、伝染病の可能性がないボランティアなどは、病棟に入ることができます。

晩期障害は、放射線治療や化学療法の副作用で、学習障害・学校に行きたくない・低身長・成長ホルモン不足・聴力障害(電子音、高音が聞き取れない)といったことがおきています。
化学療法を受けても次の子どもには何の影響もでません。

どうしても治癒せずにターミナルを迎える場合、どのようにかかわるか、そしてどのような心構えをしてもらうか、治癒しているとき以上の配慮が必要とされ、とてもデリケートです。
ターミナルの出発点とは、成人の場合は死期が2週間後に迫ってきている時であり、小児の場合は治癒することが難しいといわれた時点です。
ターミナルの時期は、家族や医療者などのコミュニケーションがより大切になるため、カンファレンスが重要になります。また、痛みがあることによって考えることなどがとても難しくなるため、ペインコントロールが必ず必要です。モルヒネを上手く使うことで80%位の痛みは除去できます。
バランス感覚も重要となり、規則や輸血、そして外泊なども自由にすることなどが大切です。但し、鼻血などで出血することは本人にも大きなダメージがあるため、血小板のコントロールは大切です。

在宅でのターミナルは家族へのケアも含めて、病棟・外来の看護婦たちの連携が大切です。

ターミナル時期になった患児のきょうだいたちへの告知は大切です。特に学童期・思春期はきちんと話すことで受容することができます。逆に、何も話されないことによってトラウマになる場合があります。
家族全員がコンセプトを共有することがとても大切です。

とても辛い中、大切なものをみつけることができるのは、人間だけです。病気の子どもたちが楽しいことをみつけようとしても一つもみつけられないという環境は非常によくない事です。
(スライドを見せて頂きながらのお話しでした。)

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