17年度商法改正 |
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(1)商法改正の流れ |
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現在の商法は、債権者保護を目的としています。つまり、会社にお金を貸している人が、無事にお金を回収できることを目的に作られた法律です。 一方、会社にお金を貸しているのではなく、投資している人もいます。この人たちを保護している法律を、証券取引法といいます。 それぞれ、保護している人が違います。貸借対照表でみると、こんな感じです。 |
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商法は、企業活動の基盤となっている法律なのですが、明治32年に制定された古い法律です。社会へ対応する為に幾度も改正されてきました。ただ、債権者保護というベースはありました。 最近の商法改正。例えば、13年6月の金庫株の解禁・額面株式の廃止。同年11月の新株予約権制度の創設。同年12月の取締役の責任軽減・監査役の機能強化、14年5月の連結計算書類の導入、そして平成15年7月の自己株式取得の緩和などは、既存の枠組みを大きく変える改正でした。 例えば、以前は、自己株式の取得は認められていませんでした。これは、会社が自分の会社の株式を買い取って、償却してしまうと、資本の部が小さくなってしまいます。そうすると借金を返済する元手が少なくなってしまいますので、取得が認められていませんでした。それが、最近の商法改正では、取得・償却が認められるようになりました。商法本来の立場が、変わってきています。 これらの改正が加わった結果、整合性が取れなくなった部分もあり、それを修正するために17年の商法改正が行われます。 |
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(2)最低資本金制度の見直し |
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@改正の内容 |
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6月30日の日本経済新聞に「1円起業、無条件に 最低資本金規制完全撤廃へ 2005年商法改正」という見出しがありました。 現在審議が行われている法制審議会では、株式会社・有限会社の設立時における最低資本金制度について、以下の、いずれかの案で見直しを行うものとしています。 |
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ただし、b案又はc案を採用する場合において、法人格濫用防止の観点から、例えば会社の不正行為に関する会社関係者の責任強化等の措置を講ずるかどうかは、検討する。 c案が実現すると、「最低資本金規制特例」が特例ではなく一般化され、個人事業主でも1円から会社を設立できる予定です。 |
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A現況の「最低資本金規制特例」 |
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現況の「最低資本金規制特例」とは、15年2月から施行されている特例で、資本金1,000万円以下の株式会社・出資金300万円以下の有限会社の設立も認めるというもので、これにより設立された会社を、確認株式会社、確認有限会社といいます。 「確認」とは「創業者」が設立する会社で、「創業者」であることを経済産業局から確認されたという意味です。また、「創業者」とは、給与所得者・専業主婦・失業者・学生や会社の代表権の無い役員などの、事業を営んでいない個人をいいます。つまり、個人事業主は、この場合の「創業者」にはなれません。 この特例が認められるのは、会社成立から5年間です。この間に最低資本金に達する増資ができなければ、合名会社・合資会社に組織変更するか、解散することになります。 |
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B確認会社の設立状況 |
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経済産業省のデータから、確認株式会社・確認有限会社の設立件数を見てみますと、16年8月13日までに、全国で15,168件あります。そのうち679件が、資本金1円で設立しています。4.5%弱とかなり少ないです。 |
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Cコメント |
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この原因は、次のようなことが考えられます。 仮に、資本金1円で会社を設立したとしますと、会社のお金は、他の人からの借入金から成り立つことになります。もちろん、返さなければならないお金ですので、毎月、元金と利息をとられます。さらに、事業がうまくいかなくなって、会社の運転資金が足りなくなった時に、新たに借入れをしようとした場合、資本の部がマイナスになっている場合があります。いわゆる債務超過の状態です。こうなってしまうと、銀行などの金融機関は、お金を貸してくれなくなってしまいます。その結果、倒産となります。 現在、会社設立時の最低資本金が、有限会社で300万円、株式会社で1000万円となっているのは、こうした状態を考慮したうえで設定されています。 また、17年の商法改正で、最低資本金の金額が引き下げられたとしても、債務超過になってしまえば、金融機関からの借入れは、難しくなってしまいます。 会社を設立するために必要なお金は、例えば、会社の印鑑作成費用、設立登記に係る登記印紙代、お店を開くのならば事務所の敷金、礼金、家賃など、また、仕入代金や机やイス、パソコンなどの備品、通信費、水道光熱費など様々なお金がかかります。1円で起業するとなると、これらの費用を、他の人からの借入金でやり繰りしなければなりません。事業がうまく軌道に乗ればいいのですが、設立当初は、なかなかうまくいかないことが多いです。 資本金というのは、会社のお金ですので自由に使うことができます。もちろん返済の必要はありません。株主や出資者に配当という形で利益の分配を行うだけです。 資本金と借入金の一番の違いは、返済の有無です。つまり、会社の資本金が多ければそれだけ余裕があるといえます。会社の安全性の指標に、自己資本比率というのがあります。資本と負債の割合をいうのですが、資本の割合が40%を超えていれば、安全といえます。理想は、70%以上です。逆に、この割合がマイナスになってしまうことを債務超過といいます。1円での起業は、初年度に利益を出さないと債務超過に陥ります。つまり、それだけ安全ではないといえるのです。 これらのことを考えると、時代の流れからは、外れるかもしれませんが、資本の部の充実は、事業を行っていく上では重要なことだと思います。 |