【退職前後に留意したい事項】

 社員が退職するときや退職後に留意すべきことがいくつかあります。
 これは事務担当者や退職者に基本的な知識がないと、受けられるはずの給付が受けられなくなったり、少なくなったりするためです。
 そこで、退職前後に「知っていると安心!」と思われる情報や知識を掲げます。

1 退職前後の留意点
@  賃金日額は、被保険者期間として計算された最後の6ヶ月間に支払った賃金(基本手当、残業手当・通勤手当等の諸手当など)の総額を基礎に計算されますので、この間に残業手当などが増えると、結果的に基本手当の日額も増えることになります。
A  ボーナス等を年4回以上支給する場合は、賃金として扱われますので、離職証明書の「M賃金に関する特記事項」欄に、支給日、支給額等を記載します。これにより賃金日額は、@の毎月の賃金にボーナス等の支給額を加算した額で計算されますので、ボーナス分だけ賃金日額が多くなります
B  離職証明書(3枚綴りのうち3枚目の離職票は退職者に渡すもの)は、退職日の翌日から10日以内に、会社を管轄するハローワークに提出します。離職証明書の提出が遅れると、その分失業給付(基本手当)を受ける日が遅くなりますので、法定期限内に手続きを行います。
C  基本手当を受けられる期間(受給期間)は退職日の翌日から1年間です。この受給期間が経過してしまうと、たとえ基本手当の所定給付日数が残っていても打ち切りとなり、トラブルの原因となりますので注意すべきです。
D  離職票は交付することになっています。本人が既に就職先が決まっている場合や退職後働く意思のない人などは、その時点で不要かもしれませんが、交付したほうがよいでしょう。これは、再就職先で受給資格(原則として6ヶ月(短時間労働被保険者の場合は1年)以上雇用保険の被保険者として働くこと)が取れない場合などは、再就職先の加入期間と退職した会社での期間が通算されることがあるためです。なお、退職後離職票の交付を求められた場合も拒否できませんので、事務手続きの煩雑さからも退職時に交付したほうがよいでしょう
E  60歳の定年退職時には、賃金登録(高年齢雇用継続給付を受けるために、60歳到達時の賃金を登録する手続き)をした方がよいでしょう。これは退職後相当期間経過後に交付を求められても拒むことができないためです。
F  定年で退職する人が、残務整理などで、定年となった日以降も引き続き就労する場合は、短期間であっても新たに雇用契約を結び、期間満了で退職したほうがよいでしょう。これは、定年になった日と退職日が異なる場合は、「自己都合」による退職として給付制限(3ヶ月間基本手当が支給されないこと)の対象となることがあるからです。
G  定年になったことなどにより退職する人であって、特に、高年齢雇用継続給付を受けたい人が、一定期間就労する意思のない場合は、受給期間の延長(受給期間が1年間延長され、最大で2年間となる)申請をしておいた方が安心です。
 
手続きは、退職の翌日から2ヶ月以内に、離職票、住所を確認できる書類、印鑑などを持参して、「受給期間延長申請書」と「高年齢雇用継続給付延長申請書」を住所地のハローワークに提出することにより行います。


2 医療保険
医療保険は、次のいずれかを選択することになります。
@ 任意継続被保険者を選択する場合
 任意継続被保険者とは、健康保険の被保険者資格を喪失後も、引き続き任意で、最大2年間、健康保険の被保険者となることができる制度で、資格喪失前に継続して2ヶ月以上健康保険に加入していたことが要件となります。
 保険給付は、健康保険の被保険者ですので、在職者と同じです。ただし、標準報酬月額は、退職時と28万円(政府管掌健康保険)を比べていずれか低いほうの額となりますので、30万円以上の人については、給付水準が下がります。
 手続きは、退職日の翌日から20日以内に、住民票などを添付して、住所地の社会保険事務所又は退職時の健康保険組合に、「健康保険任意継続被保険者資格取得申請書」を提出することにより行います。この際、保険料(申請月により2ヵ月分とられることがある)が徴収されますので、提出前に金額等を確認するとよいでしょう。
A 国民健康保険の被保険者を選択する場合
 保険料、保険給付の内容は、各市区町村により異なりますので、直接住所地の市区町村の担当窓口に問い合わせたほうがよいでしょう。前年の収入が多い場合は国民健康保険の保険料は高くなりますが、給付内容が低くなる可能性があります。
 手続きは、退職日の翌日から14日以内に、健康保険をやめたことを証明する健康保険資格喪失証明書等や印鑑を持参して行いますが、各市区町村により異なることがありますので、あらかじめ問い合わせた方がよいでしょう。


3 被保険者であった人及び配偶者の年金関係の手続き
 社員が在職中(厚生年金に加入している間)は、本人は国民年金の第2号被保険者、その被扶養配偶者(20歳〜60歳で、日本国内に居住している人)は国民年金の第3号被保険者となります。
 しかし、社員(60歳未満に限る)が退職すると、被保険者であった人及び被扶養配偶者はそのまま第2号被保険者、第3号被保険者にはなれませんので、市区町村の担当窓口で、第1号被保険者へ種別変更の手続きをし、それ以降は第1号被保険者として60歳になるまで、毎月定額の保険料(平成17年3月までは1人13,300円)を納付することになります。
 手続きは、退職日の翌日から14日以内に、「国民年金被保険者関係届」(名称は市区町村により異なる)に、@健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の2枚目の事業主控え分のコピーなど退職したことを証明できる書類、A配偶者と自分の年金手帳、B認印(朱肉のもの)を持参して、住所地の市区町村で行います。
【留意事項】
@ 届出をしないで2年を経過すると、その間は保険料滞納期間となり、年金額はその分少なくなります。なお、60歳以降国民年金に任意加入して年金額を増額する方法があります。
A 国民年金の保険料の納期限は翌月末日が原則ですが、国民年金の保険料を、1年分又は半年分まとめた前払いで納付する前納制度があります。この制度を利用すると保険料が安くなります。
B リストラなど非自発的理由で退職した人(60歳未満の人に限る)は、申請することによりその間は保険料が免除されます。免除された期間は、将来老齢基礎年金の3分の1が支給されますので、市区町村の担当窓口で相談されるとよいでしょう。なお、配偶者が60歳未満で収入がない場合は、この配偶者も保険料免除の対象となります。
C 保険料免除期間は、後日10年前まで遡り保険料の全部又は一部を納付(追納という)することができます。一方、保険料を滞納した期間は最大で2年間しか遡ることができず、2年を経過した期間は保険料滞納期間となります。