SIMON KUZNETS
Chapter 1
- 15ないし18ヶ国の今日の先進国が、近代経済成長に入った時以来、長期にわたって、総生産高は年率でほぼ3%、人口は約1%、そして一人当たり生産高は約2%で成長した。これは、日本でも、他のヨーロッパの早くから開けた国々でも、かつて観察された率よりも遙かに大きいものであった。
一人当たり生産高・総生産高とも、成長が以前の数世紀に比べると大いに加速し、今日に至るまで持続している。 →経済的エポック
- 近代成長に入ったとき、日本を除く現在の先進国は、経済的な面で世界のそれ以外の国々よりも進んでいた。
近代成長において
- 先進国がヨーロッパに属していた
- 一人当たり生産高が初めから高かった
という特徴は極めて重要である。(日本はこの二つの点において例外である)
このことは、歴史的なつながりに帰せられる諸要素と、非ヨーロッパ的な制度と経済機構の中に近代経済成長を移し替えできると考えられる要素を区別するために大切な点である。
- 後進国は、一人当たり生産高の初期水準が低かったか、過去1世紀から1世紀半の一人当たり生産高の成長率が低かったか、の要因(通常はその両方であるが)によって先進グループにはいるのに失敗した。
近代経済成長を成就してきた国々の大部分は、初期の一人当たり生産高が高かったので、国際間の格差は拡大し、第二次世界大戦後の時期ですら引き続き拡大を続けている。
- 生産構造の移行が示すように、総生産高の大部分の成長はしばらくすると低下し、全国的総計値に対する各部門の割合を低下させる。成長の停滞という趨勢がないということは、国民経済内部の諸部門全部について典型的というわけではなく、平均よりも高い成長率の新部門(産業)が加わって、絶えず全体的な安定性を維持する効果があることを意味している。
- 第一次世界大戦以前の長期にわたり、連続して成長の観察記録のある国はごくわずかであるが、それらにおいて、成長率の20年を超える長期波動が見いだされ、10年当たりの成長率には非常に明瞭な頂上と谷底が観察される。
Chapter 2
- 近代経済成長にともなう一人当たり生産高の高い成長率は、大部分、生産性すなわち投入一単位当たり産出高の成長に帰することが出来る。
- 投入について慣行の定義を選ぶと、主要な生産要素は一人当たり投入の増加に制約を加えている。
従って、一人当たり生産高の成長率が高いと言うことは、生産性の成長率が高い結果でなければならない。
- 一人当たりの労働投入は労働力の総人口に対する比率並びに労働時間数によって制約されている。
- 物的資本投入の上昇は、その増加をうながす割合、すなわち総所得にしめる資本収益の割合によって制約を受ける。
- 一人当たりの延べ労働時間・物的資本はほとんど増加せず、一人当たり生産高の成長は、大部分、生産性の向上率が高かった結果であった。従って、労働と資本の質の向上、つまり何らかの資源投入の追加によらないで達成された改善が、近代経済成長を特徴づける一人当たり生産高成長率の高さをもたらした。
Chapter 3 & 4
- 生産構造を概観するに当たっての3第主要部門の分類
- A部門
- 農業 漁業 林業 狩猟とその関連産業
- I部門
- 鉱業 製造業 建設業 電力・ガス・水道 運輸 倉庫 通信業
- S部門
- 商業 金融・保険・不動産・住宅による所得 多種多様な個人的専門サービス
娯楽 教育 政府サービス
- I部門割合の上昇は、大部分製造業によってしめられており、製造業の部門割合の上昇はI部門割合の上昇(およびA部門割合の低下)のおよそ2/3を占める。
製造業の中では、金属加工、化学・石油分野の割合が明白に上昇し、繊維・衣料、木材・皮革分野の割合は低下する。その他のI部門内における小部門の中で、相対的に最も急速に部門割合が上昇するのは、運輸と公益である。
S部門内における小部門の中では政府事業の割合だけが、大抵の国で上昇傾向を示すものの、その他の小部門割合は長期的に国ごとに異なった変化を示す。
- 生産高の割合でA部門は低下、I部門は上昇、S部門はバラバラで限られた上昇を示す。
Chapter 5 & 6
- 労働力におけるA部門割合は、先進国の成長の過程では、激しく低下した。I部門割合は多くの国で20〜40%の初期水準から40%を超える水準へと上昇している。しかし、生産高の割合の変化とは違って、I部門割合の上昇はA部門割合の低下に比べて、それほど決定的なものではない。労働力に占めるI部門の割合の上昇は、大抵の国でS部門割合の上昇よりも小さいか、ほぼ同じであった。
I部門割合上昇が生産高における割合の上昇ほどではない要因は、製造業の部門別割合の上昇がそれほどでもなかったためである。その結果、S部門の割合が顕著に上昇し、A部門割合低下の大部分を打ち消している。
ex.アメリカのような先進国では、S部門は究極的には総労働力の過半を占めることとなった
- A部門の労働力の占める割合が1世紀〜1世紀+25年の間に35ポイントから50ポイント低下したことは、労働力の面における生産構造の移行が生産高の面における構造の移行と同様に、近代以前の世紀に古い国々で生じた移行よりも遙かに急激であったことを物語る。
人口面の趨勢格差(農村人口の自然増加率>都市人口の自然増加率)と経済成長及び雇用機会の格差(農業労働力の自然増加率>非農業部門労働力の自然増加率)の傾向は
の原因となり、経済的・社会的な移動を生み出した。
- 多くの国内移動
- 家族的な結びつきや従来の働き口からの断絶
- 世代内や世代間での職業移動
国内移動のテンポが速くなったこと(=移動率の加速)は近代経済成長の明確かつ決定的な特徴である。
- A部門の労働者当たり生産高の相対比は、一人当たり生産高が低い水準の所では明らかに1.0よりは低い(=全部門の平均よりも低い)。一人当たり生産高の高い国では1.0に向かって上昇する傾向がある。
多くの先進諸国ではA、I+S部門の労働者当たり生産高の相対比は、初めは共に1.0により近い高さであった。
部門格差を表す(I+S)/A比率を観察すると、A部門は大きいものの、労働者当たりの生産高は低く、I+S部門では小さいものの、その労働者当たりの生産高はずっと高いことが明らかになる。このような二重構造は開発の進んでいない国のみならず、一人当たり生産高が$200〜$500の範囲にある国々に典型的なものである。しかし、現在の先進諸国が$200〜$500の範囲に入った段階では、特徴的なものではなかった。
- 第二次世界大戦後、一人当たり生産高の低い国から高い国へ移るにつれて、労働者当たり生産高の部門間格差は明らかに縮小し、(I+S)/A比率は顕著に低下している。A部門の労働者当たり生産高がその他の部門よりも、急速に上昇したことによって、部門間不均等比率が全般的に非常に顕著に低下している。
- 第二次世界大戦後、一人当たり生産高の低い国では、一人当たり生産高の大幅な上昇にも関わらず、A部門における労働者当たり生産高の相対比は上昇せず、部門間比率(I+S)/Aは低下していない。一方、一人当たり生産高が高い国々では、A部門の労働者当たり生産高の相対比は上昇傾向にあり、部門間格差は解消される傾向にある。
Chapter 7
総計的成長と生産構造との関係
吟味を加えるべき観測事実
- 一人当たり生産高および生産性の高い成長率
- 生産構造の高い移行率
一人当たり生産高および生産性の成長率と生産構造の移行率との歴史的な関連は、先進国の経験によれば肯定的であるが、後進国の経験によれば否定的であることが確かめられている。
技術変化が高率で、しかも加速度がついていたことは近代において一人当たり生産高および生産性の変化が高率であることの主要な源泉であり、生産構造の驚くべき移行の原因となっている。
↓
- 一人当たり生産高と生産性の成長率がある高さにあったとすると、新しい知識と技術革新を生産の問題に広く適用することとが一緒になって進むが、生産構造の移行率もまた高くなりそうである。
- 一人当たりの財貨供給量の増加率を一定とすれば、消費者の欲求の優先度と安定度に関する、基本構造の影響を考慮することが必要である。
前近代経済で農業部門が大きなウェイトを持っていたことは、低生産性という条件の下で、食糧の必要性が最優先であったことを反映している。食糧需要が安定したものであったために、一人当たり産出高が上昇しても、A部門産品の上昇は限られたものとなり、工業化と呼ばれる大きな生産構造への移行の多くが生じた。近代経済成長の中では、「新しい」財を作り出す技術革新が目立つし、生活条件の変化もまた、しばしば技術革新を招き、新しい財を作るか、古い財の生産方式を新しくする。しかし、優先度の水準を押し上げただけなので、人間の欲求の基本構造が全く異なった反応を示し、生産構造の急速な移行を生み出すという考えは疑問に値する。
- 近代経済成長は現在の先進諸国でそれぞれ異なった時に始まったが、今日でもなお世界人口のごく一部にしかその影響は及んでおらず、成長率のみならず一人当たり生産高の格差も拡大している。
国際貿易および、その他の国際間における資本・労働の流れもまた一国の産出高の構造変化を生み出す。何故ならば、高率の一人当たり生産高は、通常高率の技術進歩を反映しているが、それと同様に比較優位の急速な移行をもたらすであろうし、国内生産構造に移行ををもたらす。
外国貿易は小さな先進国において特に鍵となる要因であって、先進国グループの中で高い水準の一人当たり生産性を達成することを可能にさせた。大国においては総産出高のうち外国貿易の占める比率は小さく、外国貿易拡大が国内生産構造の移行の及ぼした寄与は小さかった。
- 高い一人当たり生産高と生産性、および、高率の生産構造の移行との結びつき
総生産高および生産性の成長性が技術革新に左右されている限りにおいて、技術革新は選択的であって、ある業種から他の業種へと、時とともに経済的衝撃が移っていくので、生産構造の変化率は高くなるに違いない。所定の時期に経済のなかの他の部門よりもずっと急速に成長している産業は、通常その時々の技術革新の軌跡になっている。
大きな技術革新とは、発明をその技術的な突破口が見いだされるまで、満たされることの出来なかった、潜在需要を満足させるのに用いることである。
技術革新を構成する要素
これらはそれぞれ制約を我々に与えるものであり、そのため、各種財貨への消費需要の所得弾力性が技術革新を適用するための選択性を生み出す。
- 一連の小発明・小改良をその周辺に創り出すような枠組みを与える発明
- 物的資本の供給
- 人的資本(発明者、技術者etc...)の供給
- 新知識を生産の問題に広く適用することと、一人当たり生産高の高い成長率との関係は、a.に従うならば、生産構造の高率の移行をもたらすものである。しかし、そのことは、有用な知識、化学それ自体のストックの成長率を高めるのに不可欠であり、一人当たり生産高と生産性をさらに高率で成長させることになるであろう。
生産構造の高率な移行にともなって、新たな知識を大量に適用することと、一人当たり生産高と生産性が一層上昇することとのつながり
↓
- 新しい知識・技術革新の大規模な適用は、有用な知識と化学のストックの高い増加率にとって十分条件でないにせよ、必要条件である。この事は、一人当たり生産高を高め、新しい知識生産への投資に追加資源を与えるという理由のみによるものである。
- 潜在的に有用な知識のストックが高率で増加するとき、基礎科学・応用科学における新知識、発明、技術革新の適用が高率であると想定するのは理にかなっている。
このことは、新知識と革新にとってより有利な社会環境、つまり潜在需要の豊かな鉱脈に行き当たれば大きな経済的・社会的報酬と資本供給の増大を保証する市場機構があることや、教育と能力があり、一つの「純粋な」知識の発見からそれを大規模に適用したり、発見から発明を導くまで橋渡しすることの出来る、発明者・改良家・革新家などの人々の供給が急速に増加することを前提にしている。高率の総計的成長はほとんど不可避的に高率の生産構造の変化をともなう一方、科学・知識の広範な適用と生産構造の高率の移行は総計的成長率を高めるのに不可欠である。
構成部分の成長率の高低と総計的成長の限界
革新が需要の価格弾力性の高い既存財貨の実質費用を物理的に低下させるならば、または以前に充足されなかった欲求を満たすような、新しい財貨が一人当たりベースで相当程度導入されるならば、産出高の物的成長率は高くなりうる。総生産高に強い影響を及ぼしうるほどに充分な大きな革新は大革新であって、その枠組みの中で小さな改善が次々と急速に積み重ねられ、費用が逓減し、生産性が向上する。
↓
- 大革新の初期段階には、それが物的・社会的技術のいずれかであっても、単位当たりの費用(=価格)は高く、改良が重ねられたのち低下した水準と比べて高いし、仏区から存在する財の価格に比べても高い。
- 実質費用が高いということは、実質資源の投入量がより大きいことであるから、初期段階ではその産業の物的産出高は小さいにちがいない。
成長に限界をもたらす源泉
- 特定の革新に付随した成長機会が次第に枯渇する
- 経済の中で革新の焦点が連続的に移行している
- 諸構成部分は高い成長潜在力のある革新にとって、当面影響を受けているものと、その時期を過ぎてしまったものとに区別される
構造変化:経済的側面と非経済的側面
生産構造の変化は、必ず経済構造のその他の面の変化を伴う。
ex.
農業から工業への移行
→生産プロセスが最小の規模から増大し、最適なプラント規模へ移行するプラント規模の急激な増大
→輸送や通信の技術的な革命に助けられ、参加労働力の労働条件が変化する
→急速な都市化都市集中
→非農業部門内の構造変化
→消費需要のパターンの変化ある国だけの農業からの移行
→比較優位の変化
→輸出入構造の変化
→国内生産の構造に影響を与える
経済構造の変化がその他の社会制度に与える影響
→初め経済構造そのものが変化し、ついでもっと広範な非経済的なところで変化が生ずる。やがて、それは経済への効果として逆に戻ってくる。ex.
プラント規模の顕著な増大
→(固定投下資本もしくは従業員数ではかった)大プラントは個人所有者あるいはその一族数人では維持できず、近代的な会社形態を社会革新として発展させた
→新しいタイプの企業がプラントの効率的な操業のために発達した
a.必要な制度的革新の精算所
b.各グループの利害争いの解決機関
c.社会的に必要な諸施設の中心的運営者 として、主権国家は重要な鍵を握っている。このため、経済構造の変化が高率になることと、組織主体としての国家の重要性は直結している。そのため、経済成長を測定したり、分析したりする際に、諸国民の経済成長について語り、国民経済計算を用いるのもまた偶然ではない。
複雑な関連についての疑問19・20世紀中の様々な統一と分離の運動は、近代的なナショナリズムの意志決定を承認しようとするものであったのだろうか?
必要最低限の組織上の用意を整え遅れたことが、現在の先進国の中における、若干の国々が近代成長へ突入が遅れた原因になっているのだろうか?
ある国が大きくて、絶対的な経済の比重が成長以前に存在した大まかなバランスを逆転させる場合には特にそうであるが、これらの間には何かつながりがあるのだろうか?
近年になって、発展した国民国家の積極的な政策は、いったいどの程度プラスの要素(外国貿易の増大、資本投資可能額、広く後進国への浸透を通じて近代経済成長を拡散するetc...)で、またどれぐらいマイナスの要素(先進国間で緊張を生み出すetc...)なのであろうか?
経済構造の移行は必然的に人口学的パターン(出生率・死亡率・家族構成・人口分布etc...)、法的・行政的制度、社会的イデオロギーの部分要素を変化させる。
- 一人当たり生産高、生産性の成長率が高いことは経済構造の変化と密接な関係を持ち、実際それを必要とする。
経済機構のみならず、社会の制度や信念の構造変化が何かしら必要であって、それがなければ近代経済成長は不可能であろう。
- 若干の社会構造の変化の側面も、経済上の構造変化のパターンと類推的に、前近代期よりは高率になる。
構造変化と成長との連鎖近代経済成長のパターンの中で次々に生じる事柄の連鎖
全て経済的・社会的制約を受けている。
- 有用な知識と科学のストック→技術革新→生産性の向上→生産構造の変化→経済構造におけるその他の面の変化→政治的・社会的構造と信念の変化
これらは需要にも影響を及ぼす。
- 科学から技術革新→一層の研究→より多くの科学へ・・・
近代経済発展を特徴づける成長に固有の特徴
- 連鎖が、経済的変化(ex.生産構造の変化)が経済的結果(ex.熟練労働者の需要)へと直接結びつくとは限らない。往々にして、経済変化が生活条件に及ぼす効果を経由して結びつけられている。
- 連鎖は長期間に及ぶものでも、その途中で終わってしまうものもある。