第6話 桐生「今年も今日で終わりか、自販機で始まり自販機で終わったな。」 太田「今年はいろいろあったよ、俺なんか彼女に振られた時も自販機コーナーが癒してくれたよ。」 桐生「あれ、いつ彼女がいたの?いつも自販機一緒に行ってたよね。」 太田「春頃あまり行かなかったでしょ、 その頃自販機コーナーから車で10分の彼女の家によく行っていたよ。」 桐生「行きも帰りもいつも自販機コーナー寄っていたでしょ。」 太田「今でもその自販機コーナー行ってるけどね、さすがに思い出さなくなってきた。」 そう言いながら、太田の目は少し潤んでいた。 太田「自販機ってさお金を入れたら無言で食べ物出してくれるからさ、 ウィーンウィーンっていう音の間のわずかな時間に、いろいろな思いがこみ上げるんだよ。」 桐生「一人だと特にね。」 太田「でもやっぱ一番思い出すのは高校の頃行った自販機コーナーだね。」 桐生「最近行ってないけど、もう潰れちゃったんだっけ?」 太田「4,5年前に行った時にもうファミレスに変わっていたよ。」 桐生「もう跡形も残っていないんだ、高校時代の思い出が。そういやうちの高校もなくなったね。」 太田「最近自販機ホームページでよくメールもらうんだけど、 こういう自販機コーナーって1970年代からあるらしいよ。 俺たちが生まれる前からあるなんてすごいよね。」 桐生「この自販機って30年も前の物なのか、よくがんばっているなぁ。」 太田「最近コンビニとかファミレスとかたくさん24時間営業ができてる中、 生き残っていてすごいよ。」 桐生「完全に時代の流れに逆らってるね。」 太田「高校時代の思い出の地、東京生まれの俺たちにとってはここは故郷だね。」 桐生「そうそう、今里帰り中。相当冷えてきたよ、何でこんなところでずっといるんだろ。」 太田「自販機でコーヒーでも飲むか。」 この自販機コーナーは暖房なんて効いていない。 外との境界線は薄いガラスの扉だけだ、だからものすごく冷える。 自販機から出てくる異常にあたたかいコーヒーを飲むと、冷えた頬は一時的に熱くなった。 第7話に続く |