『“お笑い界の勝ち組企業”吉本興業は
女性にモテる人材をつくる』



 今回は「大衆と共に」を合言葉に、明治45年の創業からいつの時代にもお客様に愛され、社会に貢献できるエンタテイメント・ビジネスを追及し、最近では経団連にも入会された「吉本興業株式会社」代表取締役会長中邨(なかむら)秀雄さんの講演からです。



吉本興業株式会社は今年で創業90年となります。



 創業者夫妻並びに創業者の弟で今日の基礎を作ったわけですが、この間の事情につきましては、NHKで放送されたり、また「大地の子」などで有名な作家の山崎豊子さんが、創業者夫妻をモデルに「花のれん」という小説を書いたり、森繁久彌・淡島千景主演で映画化されたりしていますので、ご存知の方も多いと思います。

 創業者である吉本家は、元来荒物屋でしたが、道楽者で寄席通いが大好きでした。その寄席好きが嵩じて自らが寄席の経営にのりだしていきます。

 創業者の秀でたところは、当時100軒ばかり寄席がありましたが、殆ど落語ばかりの演目の中に、漫才・民謡・手品等を取り入れてバラエティに富んだ、お客様の退屈しないようなものにするとともに、当時25銭だった木戸銭を10銭にするという、今日で言えばいわゆる価格破壊をやってのけたことです。
 これは借金をして寄席の数を増やし、寄席をチェーン化することによって可能になりました。
 創業者は創業後10年で死亡しますが、弟である林正之助が経営に加わり、戦争中の空白期間を経て昭和34年本格的に演芸が復活され、今日に至ってます。



§「モノ」を言う商品§


 吉本興業は、今日、約650人の芸人・タレントを擁して1週間に127本のレギュラー番組を持っています。特色としては、一般の企業と大きく違うところが「扱う商品がモノを言う」ということです。
 「モノ」を言うということは、大変「扱い易い」という一つの特徴を持っています。
第一に、メディアを利用できるということでして、吉本興業は、芸人・タレントに「モノ」を言わして、いろいろの商品を販売してます。
 芸人は、殆どの場合「吉本は芸人に〇〇をうらしよる・・・」といった具合に出演したテレビ番組等で悪口をいう形で番組の中で取り上げ、結果として商品のPRをするということになります。つまり、宣伝費をかけずに宣伝できるわけです。
 和歌山県の岩佐町産のナチュラルミネラルウォーターを「天然でんねん!」とネーミングし、タレントを動員して売り出したり、横浜港に「ロイヤルウイング」というエンタテイメントクルージング船を就航させたことなどもその一つの例です。そのような商品はキーホルダー・筆箱・下敷き等約200アイテムあります。


 「モノ」を言うということは、良いことばかりではありません。出演している番組等で自分を売り込む目的で、あるいはお客様にウケルことを目的に平気で会社の悪口を言います。その多くは「吉本はガメツイ」という意味の言葉が多くて、世間様から誤解を受けているのではないかと気にやむところもあります。
 実際、所属するタレントの中で、昨年一年間で一億円以上稼ぐのは12人。
最高は、タレントAで、8.7億円だそうです。日本のサラリーマンの平均年収が400〜500万円といわれていますが、吉本でこの数字に達するのは100人位迄で、残りの550人以上のタレントは、その数字に達していないという非常に厳しい世界であることは間違いありません。




§「吉本流人材発掘・育成術」§


 吉本にとっては、タレントの才能を引き出す力のあるディレクター・マネージャー・プロデューサー=「裏方さん」を作り出すことが、良いタレント=商品を生み出す原動力です。
 それでは、優れた「裏方さん」を養成するにはどうするか?定期採用で募集をすると、1.000人以上の応募があり、その中から、最終的にはわずか10分弱の役員面接で5〜10人の採用者を決定しなければなりません。

 その決定ポイントが三つあるそうです。
 まず一番は「歯」です。言い歯並びをしているかどうか。歯を大切にしているということは、健康に留意しているあらわれなのです。

 次に「目」です。目は生き物です。話しているときにキョロキョロせず、しっかり相手を見ているかが大切です。
 三番目は「声」です。話している相手に対して、ハキハキと受け答えが出来ているかをみます。これらは、接客業では特に大切なことです。
 こうして選んだ社員は、3〜5年間はまだ役に立ちません。ではこの間に何を教え込むか?吉本では世の中の流れを知るために、次の三つを厳しく教え込んでいるそうです。
 まず一番に「活字に親しめ」
 専門書に拘らず濫読でも可。加えて新聞をよく読むことです。 
 二番目に「異業種の人との積極的な交流」です。
 同級生や近所での同年輩である、異業種の人々と幅広くお付き合いすることです。
 三番目は、「自分が目指す分野の本物をみる」ということです。
 例えば、ブロードウェイにミュージカルを見に行くなどです。それも、会社の金で見に行くのではなく、給料を貯め自費で見に行くことが重要です。
 自分のお金ですから、無駄にはしたくないという気持ちが湧きます。


§「21世紀は女性の時代」§


 21世紀を迎えて、吉本も、いま申しましたような「億」を稼げるタレントを今後も育ててゆかなければなりません。そのためには、21世紀がどう変わるのかということを見極めることが欠かせません。
 明治に3.000万人だった人口が、いま12.700万人。2007年からは、いわゆる少子・高齢化といわれるものの影響が顕著にあらわれ、人口がどんどん減ってゆきます。そうすると労働力不足という問題が生じてきます。これを補うには「女性にタヨル」しかないと考えています。即ち「女性の時代」がくるということです。



 タレントも”「女性にモテる」タレント”でないと、ダメな時代に入ってきたと考えています。
 このことは他のどの仕事・どの商売にも同じことが言え、女性をターゲットにして商売することが21世紀の事業の方法ではないでしょうか。

 そこで女性にモテる方法は何かと考えてみたとき、江戸時代の落語「稽古屋」のなかで、色街に行ってもさっぱりもてない男に、庄屋の甚兵衛さんがコンコンと諭す話になっているものがあります 。
 この中に出てくる「女性にモテる」男になるための、10項目を題材に話を進めていこうと思います。



§「女性にモテる10箇条」§
        みえ
 第一は「見栄」です。
 これは、いわゆる見栄を張るという意味ではありません。女性にはまず清潔感を覚えてもらえる人でないとダメです。そして、上手に挨拶が出来ることが大変重要です。従って、タレントは清潔感があり、上手に挨拶の出来るタレントでなければなりません。


      おとこ
 第二は「男」です。
 いわゆる「男マエ」です。これは言わずもがなのことでして、「イイ男」にこしたことはありません。幸いなことに、現代は「男マエ」を作れるようになりました。整形手術・化粧品・化粧のテクニックの進歩等を挙げればキリがありません。

      かね
 第三は「金」です。
 金を使わなくては女性にもてません。何も不相応の金を使うということではなく、「生き金」を使うということです。ただ、難しいには使っているときそれが「生き金」かどうか解らないことです。
 ジミー大西さんが赤坂プリンスで費やした300万円を、その時は「死に金」と諦めて吉本が肩代りしましたが、結果的には彼の画家としての才能を発掘するきっかけになったことで「生き金」だったということが解りました。


      げい
 第四は「芸」です。
 これもなかなか大切なことで、たとえば一寸手品なんかができますと、女性に大変近づき易い場合がたくさんあります。落語家の桂三枝さんは、トランプの手品が上手で、それで大変得をしているそうです。

         せい
 第五は「声・精・性」です。
 声にも女性に好かれる声とそうでない声があります。例えば「男はつらいよ」の映画で有名な俳優の渥美清さんは、あの特徴的な声も人気の一つだそうです。
 「”精”とは、精を出して働く」ことです。「働く」は「端楽」に通じます。また、女性はグータラ人間を特に嫌います。
 「性」とは、性格のことです。これはいうまでもなく「明るい性格」でなくてはダメです。いわゆる「ネクラ」ではダメです。「ネクラ」な人は、「ネアカ」になるよう努力しなければなりません。

 いまや日本の「ネアカ」人間の代表的存在になった明石屋さんまさんは、吉本に入ったころはまったくの「ネクラ」人間だったそうです。
 ネアカになる一つの方法は、「しゃべり上手」になることですが、そのためには、先ず「聞き上手」になる必要があります。それも忍耐強く聞く・・聞くことによってネタが豊富になる・・話をすることができるようになる・・そのうちに話し上手になると言うことです。
 それには、やや極端ですが、お年寄りの同じ話を何度も何度も聞くことで、自ずから聞き上手になることができます。

 造り酒屋のおじいさんの話を聞いているときに「その話はこの前聞きましたよ」と言ってしまったばかりに、おじいさんが怒ってしまって、いつもはお土産で2本いただいていたお酒を1本に減らされてしまったと言う話もあります。



『“お笑い界の勝ち組企業”吉本興業は女性にモテる人材をつくる』

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