新たなる野望者 第1章

「野望のはじまり」


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 男がひとり、研究をしながらある物を作成している。
ここはどこだろうか?まわりには、書物が散乱し、棚にも無数に並んでいる。書物の他には、魔法、奇術に使用されるような道具がこれもまたたくさん置いてある。
しかし、ここがどこなのかはわからない。共和国ではないのは確かだが共和国からはたいして離れていないようだ。
どうやらこの男、魔法にはそれなりの力を有しているのは間違いないようだ。歳もまだ30には達しないようだが、かなりの年月を生きているような落ちつきぶりも感じとれる。服装も、黒のローブといういかにもそれだと言っているような物であった。

バタン
「誰ですか?」
「わたしよ。」
彼の部屋に何者かが入ってきた。女性である。歳は彼とそうは変わらないであろう。
非常に神秘的なものを感じる雰囲気だ。彼女も、間違いなく魔法に精通しているだろう。
ただ服装は、黒のローブというなんの色気のない物ではなく、ある程度動き回れる戦士タイプに近い服装であった。そして、色彩も明るめであった。
「あなたですか・・・まったくノックぐらいしたらどうです? で、なんの用でしょうか?」
「そんなことはどうでも良いじゃない。ところで例のもの、ほぼ完成よ。」
「そうですか。実戦に使用できそうなのはいつ頃なんでしょう?」
「まだそこまでに至るには、いろいろと実験、調整が必要じゃないかしら?」
「わかりました。まぁ、完全になってからの方が良いでしょう。こっちも、だいぶ進んでいます。そろそろ実験段階に入れそうです。共に完成次第、連動させる調整に入ります。さがって良いですよ。」
「わかったわ。じゃまたね。」
彼女は、ゆっくりと部屋を後にした。
「ククク、これでわたしの長年の計画を実行できますね。」
不気味な笑いが部屋を包み込む。
はたしてふたりが作っている物とは・・・

共和国誕生からまもなく半年になる。
首都であるグレッグミンスターでは、ここに来て、非常に忙しい状態になっていた。
共和国誕生半年のお祭りを開くことになったからである。
もちろん、解放軍の時のメンバーも大忙しである。

料理担当長マリー
祭り細工担当ゲン、サンスケ
開催告知の発送担当オニール


など
普段やらなくてはいけない事にプラスされるので、大変である。しかし、みんな喜べることなので文句は何ひとつ無かった。
祭り当日が近くなると、解放軍のメンバーが集結してきた。旅に出ている者を除けばほぼ全員である。
ただし、モラビア城々主であるカシムは、警備を理由に参加を断ってきた。大統領であるレパントは、数時間で良いから参加して欲しいという連絡をしたが、断られたようである。
カシムが言うには、
「長年の戦士生活で培われてきた勘が、わたしに行くなと命じている」
だそうで・・・。

そして当日。
グレッグミンスターや、そのほかのいたる町でこの日は歓喜の声に包まれている。
この様子は、帝国から解放を達成したとき以来であろう。
再建されたグレッグミンスター城では、解放軍のメンバーを中心に共和国の順調な発進
を祝って宴が行われていた。
こういう時にはお約束である、レパント大統領の話である。
「みなさん。今日はお集まりいただいてありがとうございます。
共和国の誕生から早くも半年が経過しました。みなさんの力によって帝国から国を開放し、みなさんのための国作りができているのをうれしく思います。
本日は、解放軍リーダーであったモリス殿が旅に出ておられここに参加できないのが非常に残念ではあります。
しかし、みなさんも久しぶりの再会も多いと思います。時間の許す限り楽しんでいただいて、今後も共和国の発展に協力頂ければと思います。」
拍手と歓声が会場を響かせる。
ほとんどのメンバーは、元の仕事に戻っているが、なかなか会えなかった人も多く再会を喜んでいる。
「レパント様お久しぶりです。」
「おおっ、カスミ殿か久しぶりですな。今日はモリス殿がいなくて残念ではないのか?」
「えっ、そんなわたしは・・・ モリス様は大事な修行の旅に出ておられますから。」
「うむ。そうだったな。モリス殿との約束を果たすためにわたしも頑張らないと」
「ハクション!」
「あれ?どうしたんですか坊ちゃん。風邪ならゆっくり休まないとダメですよ」
「大丈夫だよグレミオ。きっと誰かの噂だと思うよ。ほら見て。もう少しで町に着くよ。」

「ところでカスミ殿、申し訳ないがひとつ頼まれてくれないか?」
「え?はい。なんでしょうか?」
「実は、モラビア城のカシム殿なんだが、変な理由を付けて参加しようとしないんだ。いまから行って来て少しでも参加するように伝えてくれないか?」
「わかりました。」
「ゲンの高速船を使えばだいぶ時間を短縮できると思うぞ」
「今日中には、十分戻れると思います。」
「祭りは明日まであるから大丈夫だろう。」
カスミはロッカクで祭事の時に使用する衣装からいつもの衣装に一瞬で戻り、モラビア城へ向かった。忍者とくの一はいつでも戦闘態勢に戻れなくてはいけないのだ。
宴は、まだ1日目にも関わらずどんどん盛り上がり明日がどうなるのか心配になるほどであった。
夜になって、カスミが戻ってきた。
しかしその知らせを受けた者たちは一瞬に緊張の顔に戻った。
なんと、モラビア城の北方に1万の軍が集結段階に入っていたからだ。
城の警備では発見できない距離であったが、カスミの先鋭的な能力により発見できたの
である。幸か不幸か、カシムの『戦士の勘』というものが当たってしまったのである。
相手は、ジョウストン都市同盟の可能性が高いが不明である。
カスミは緊張した顔で
「夜明け頃に襲撃開始は間違いないようです。」
「カシム殿はどうすると?」
レパントが険しい表情で聞く。どうやらあっという間に酒が抜けたようだ。
「いまある軍で体制を整えるそうです。」
「足りないな。」
どこでこの宴を耳にしたのか、たまたまなのか共和国戻ってきたパーンはいつもなら最後まで食べているはずなのにこのときばかりは早かった。
まわりは一瞬、食べ物が足りないのかと思ったが、勘違いであった。
まだ、皿には料理が結構残っていたからだ。
もし仮に事実だとしても、この状況でそんなことを言う無神経な者は居ないだろう。
「軍を出すぞ、1万だ! 海軍の船を使う。一番近いルートだが、到着には翌朝を少し過ぎてしまうが仕方がないだろう。ソニア殿よろしく頼む。」
レパントが命を発する。
近い城、砦から軍を出すのも良いが、伝達に時間がかかるのでほぼ同じになる。
今後は伝達方法も考える必要があるだろう。
祭りに水を差す結果になってショックが大きいが、違う理由であれカスミを送らなかったらどうなっていたかと思うと考えるとゾッとするレパントであった。
逆に言えばまだ運は味方しているとも思うのであった。
軍には、火炎槍を持つ新部隊と騎士団も再結成され、共和国トップの軍と言えるであろう。そのうえ、解放軍の元メンバーも入っているのだからさらに強力となる。
その中心になるのは、グレンシールとアレンの両将軍である。
バルカスが率いる国境警備隊も戦地へ向かった。

一方

カシムは、緊張の面持ちで北を見ていた。ここでの戦いは約7ヶ月ぶりだ。
前回はマッシュと五将軍などの説得で自分から折れた形になっが、負けは負けだ。今度こそ、この城は守らなくては行けないのだ。

そして日が昇ってくる・・・

1万の軍が、北からモラビア城に迫ってくる。カシムは城の砦で迎え打つ準備をする。こっちの軍は4千、どう考えても不利である。しかも、相手がどのような戦法でくるかが全くわからない以上、なおさらである。
「来ました!」
見張りの者が叫ぶ
外から1人の男が、声を発した。
「軍の大半はわたしの後ろ2里です。まず話しをしようじゃないですか、カシムさん。」
いままでに聞いたことがない声だ。
しかし、わたしの名前を知っているというのはどういうことか?都市同盟の軍じゃないのか?それとも新たな隊長か?
まぁ、わたしが有名というのはそれなりに嬉しいが・・・
「間違いありません。相手は3人の騎士とだけ来ています。残りは全て2里ほど後ろです。」
城の見張り台から、声がした。
「よしわかった。話を聞いてやろう。」
ここは、まともに戦っても勝てるはずがない。少しでも時間を伸ばして援軍を待つ方が、どう考えても賢明である。
カシムも3人の兵を従えて出てきた。
相手は、30歳手前の者である。ただどう見ても戦士には見えない。闇に包まれそうな黒のローブを着込んでいる。どうやら魔法使いタイプらしい。この歳にしては妙に落ちついているので、なにか気に入らない。
しばらく沈黙が続く・・・
「おまえは、ジョウストン都市同盟のものか?」
先に、声を出したのはカシムであった。
「そういうことにしておきましょうか?」
男が、冷静な声で答える。
「バカな!」
どう見ても、相手の3人の騎士は都市同盟のそれと同じ格好である。
しかし、冷静さを失うと相手の思うつぼなので、カシムは怒りを必死に押さえた。
「今日は、なるべく戦いを避けたいと思うのですよ。」
男はいまだ冷静に言う。
「その割には、1万も連れているようだが・・・。で、どういう用件だ?」
「別に、モラビア城を明け渡して欲しいと言うつもりはありません。ちょっと実験のお手伝いをしていただきたいと思いまして。」
「実験?」
カシムは少々驚きの表情を出した。
「そうです。ちょっとわたしたちの者では実験できないようなので。」
いまだに表情を一瞬も変えないで言う。
ここまで言われれば、大抵の者がわかるであろう。

これは人を使った生体実験でなおかつ非常に危険であるという事を。

「断った場合は?」
「まぁ、仕方がないですね。後ろの者たちの闘志を熱くすることになるでしょう。」
カシムはしばらく考えたふりをして、
「時間をくれないか?」
と答えた。
正直くれるか、わからなかったができるだけ伸ばすにはこれしかない。
返事はあっさりと返ってきた。
「1時間さしあげましょう。」
カシムは城に戻り、時間をつぶした。
考える必要はない。答えは最初から「ノー」だからだ。ただの時間稼ぎとしてもらった1時間である。どうやら彼はこっちに援軍が来るということを知らないようだ。この日を狙ってきたのも、祭りで兵が少ないのを考えてのこと。きっと余裕から出ているのだろう。

30分後、カスミが到着した。
もちろんカシムのまわりにいる自軍の兵士以外は気が付かないようにである。
「カシム様、まもなく兵が到着します。」
「わかった。こっちは話し合いと称して時間を稼いでいる。あと30分後に北側から兵士を出してれるよう伝えてくれ。」
「わかりました。」
カスミは入るときと同じように相手に悟られずに城を去る。さすがである。

そして・・・

「時間ですよ、カシムさん。」
外から、いまだ冷静な声が聞こえた。
見張りの兵に、相手の軍がまだ遠いというのを確認してから、再度外へ出た。
「さて、答えを聞かせていただきましょうか?」
「もうひとつ聞いて良いか?」
「この期に及んでですか? まぁ、良いでしょう。」
「なんの実験なんだ?」
だいたいは察していたのでさっきはあえて聞かなかったのだが、ちょっと興味が出てしまったのだ。時間稼ぎにもなるというのは言うまでもない。
「大したことじゃないですよ。それではカシムさんの答えを聞きましょうか。」
カシムが、口を開けようとした瞬間
「そこまでだ!」
レパントが叫んだ。
城の左右から、5千ずつの兵が取り囲んだ。
この瞬間いままで全く変えなかった男が、とうとう表情を険しくした。
「くそっ、まさかばれていたとは・・・。こいつはまだ不十分。これだけの相手では辛い。今回は撤退だ。」
表情が変わると一気に言葉使いも変わってしまうのか・・・
ここで逃がしてはいけないとカシム達は追うが、男は空中に浮かぶと一気に自軍の方へ飛んでいった。
そういえば彼だけ馬ではなかったのが不思議であったが、こういうことだったのだ。3人の騎士は逃げ切れず取り囲んだ。
別に捕虜にする気はない。色々聞くだけである。
3人を捕虜にしたところで相手がひるむとは思えないし、こちらもそういう気はないからである。
兵士達から歓声があがった。
今回はとりあえず、相手の撤退により戦わずして勝ったが・・・・

戦いは始まったばかりである。
そして、あの男はいったい何者なのか・・・


▽第2章「過去と現在とをつなぐ魔法」
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