新たなる野望者 第2章

「過去と現在をつなぐ魔法」


△第1章「野望の始まり」
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モラビア城の一室で会議が行われていた。
今後の攻撃にどう対処して行くべきかを議論するためである。
参加者は、

共和国大統領   レパント
モラビア城々主  カシム
国境警備隊々長  バルカス
水軍隊長     ソニア
ロッカクくの一  カスミ(相手軍を発見したため)
書記       テスラ

以上である。
あまり多くの人から意見を聞いても混乱するので、今回はこのメンバーとなった。
もちろん、元解放軍リーダーであるモリスが居ればもっと良かったのだが、そんなこと
を考えている暇はない。
とにかく、なるべく早く対策を練る必要がある。
捕らえた三人は、釈放した。
あの男についてわかったのは、
・都市同盟で最近抜てきされた将軍である。
・フェリウスという名前である。
・サルファという女性の側近がいる。
という点だけであった。
尋問などは、ビクトールが得意そうだったが彼も行方不明である。
もちろん、グレッグミンスター城は捜索したが、遺体すら見つからなかったのだ。
旅や行方不明で、メンバーが結構欠けているのは正直痛いと思うレパントであった。

「カシム殿、もう一度詳しい状況を説明していただきたい。」
レパントが、会議を開始させるべく話した。
「フェリウスは、祭りで城の警備がやや手薄になっているところに現れ、実験を手伝っ
て欲しいと言ってきた。
1万の軍は後方に待機させ、従わせるためのプレッシャーに使うつもりだったようだ。
わたしは、援軍を期待しながら時間を稼いで援軍の到着に間に合わせた。
そして相手は、撤退を余儀なくされた。」
カシムは、先ほどの出来事を端的に説明した。
「その実験というのは、どんなものなの?」
ソニアが聞く。
この人も冷静な方である。
ただ、想っていたテオが息子であるモリスに倒されてからは、その冷静さも欠いていた
のだが、時間がたつにつれテオの気持ちを理解できたのだろうか?
元の落ちつきを取り戻しているようである。
「いや、それが答えなかった。
 しかし敵国に対してじゃないと実験できないとするとどう考えても死傷者が出る実験
 としか思えないだろう。
 また、あの格好からして魔法に関する実験なのは間違いないと思うが。」
「しかし、いくら魔法に精通していてもひとりで4千人相手に魔法を使うのはあまりに
 も辛いと思いますが。
 たとえ真の紋章を使用したとしても。」
と、ソニアが再度聞く。
「あの男は言っていた。『こいつはまだ未完成だ。この人数ではきつい。』と。
 これが一番気になる。
 完成するとどうなるのか・・・」
カシムが思い出しながら言う。
「とすると、あの男は魔法に関するある物を作っていて、その効果を調べるために
 モラビア城に進撃したという事なのか?」
バルカスが初めて口を開けた。
すでに山賊稼業から足を洗い、現在は北の国境を警備している。
この部隊は首都側の東を警備している。
なお、西側はカシムが担当しているのである。
「そうだとすると、魔法に精通している者を呼ぶ必要があるな。
 テスラ殿、ヘリオン殿を呼ぶように手配してくれないか。」
「ええっ、わたしがですか?」
テスラは嫌そうに、手配のために部屋を出た。
この件については、ヘリオンが来てからということになった。
レックナートのあとを継いでいるヘリオンならこの件に関してなにかを知っているかも
しれないからだ。
「ところで気になったのがあの男、空を飛んでいたようですが。
 どなたかわかりますか?」
レパントが皆に聞いた。しかし、先ほど魔法の話しが出てだれもわからなかったのに、
ここでまたそういう話しにしてしまうのは、ちょっとお間抜けであった。
しかしその時、一筋の光が部屋に入りそれと同時に1人の少女が現れた。
ビッキーであった。
テレポートを使いこなせる魔法使いである。
確かまた失敗してどこかへ飛んでしまったはずだが・・・
「あれあれ?また間違えたちゃったのかな?
 しょうがないもう一度いくわよ。」
ビッキーが詠唱を開始する前に、ソニアがそれを止めた。
「あら、みなさん。お久しぶりです。ところでここはどこです?」
ソニアに止められて初めて、周りに人がいるのに気が付いたらしい。
ちょうど良かったとばかりに、レパントがいきさつを説明した。
「あっ、それは飛行術ですね。」
ビッキーは、いともあっさり答えた。続けて、
「飛行術は、魔力を使って引力を自分に対してのみ無効力化しさらに飛行機能を
 発生させ物です。わたしが使う転送術は、一度行ったところにしか行けないのに
 対して、この場合は、多少時間はかかりますがどこにでも簡単に行くことができま
 す。ただこの術は、非常に上級です。わたしもまだできなくて・・・」
するとレパントは、
「とするとその男は、相当の魔力を持っていると言って良いという事になりますね。」
「そういうことになると思いますわ。」
ビッキーも残ることになって、後はヘリオンを待ちながら進めることになった。
しかし、まわりは不思議がっていた。
ビッキーが偶然にもここに飛んできたという事である。
魔法を使う者にもいろいろと得意な分野があるのは、どの武器が得意であるかという
事と一緒である。
もちろんいろいろ使いこなす者もいるにはいるが・・・。
魔法の力のなかに、時視術や空視術などの普通の人間では絶対に見ることができない
ものを見れる者がいる。
前者は未来などを見ることができるものである。
レックナートにもある能力である。
一般的には星見や占いと言われているものである。
それに対して後者は、空間を見ることができるものである。
いわゆる遠くの出来事を察知したり、風景を感じとったりできるのである。
しかしよほどの魔力と生まれながらにして偶然に持ち合わせた能力がない限り、使うの
は困難と言われている。
ビッキーも密かにこの能力があり、それがここに来るべきだということを感じとって
ここにと飛ばさせたという可能性があり得るのである。
しかし、間違えて偶然ここになったという事から、あったとしても本人がそれに気が付
くかわからない程度の能力ということになるだろう。
だが、ここのメンバーにはそれに気づく者は居ないようである。。

謎を残しながら、引き続き議題は進む。

「今後、戦闘が続くことになった場合、有効な作戦など考える軍師が必要になると思う
がどうであろうか?」
やっと魔法とは直接関係のない話しにレパントは持っていった。
「マッシュが居ないからな・・・」
バルカスが若干寂しそうにいった。
戦闘の能力は並程度であるが、軍師としての才能はずば抜けていたのは事実である。
いくらモリスの人望が高くても、戦いの知識はまだまだであったため、彼が居なければ
今の共和国は無かったであろう。
しかし、彼はもう居ない。
彼の代わりとなる軍師が必要なのは間違いない。
レパントもある程度の能力はあるが、軍師と言えるほどではなかった。
彼の場合は上に立ってまとめる役の方がずっと適している。
とりあえず心当たりを考えることにした。
参加者はしばらく、知っている人物を次々に思い浮かべ適役は居ないかと考えた。
なかなか、これといった人物は出なかった。
そして、カスミが1人思いついたようである。
「レオンさんはどうでしょうか?」
レオンは、元帝国の名軍師であり、最後に解放軍に入った人物で現在はまたカレッカで
隠居中である。
オデッサとマッシュの叔父でもある。
実力がどの程度かわからないが、マッシュが手紙を書いてまで仲間にしたということか
ら、能力は相当あると思われる。
「しかし、仲間になってくれるのか?」
バルカスが聞いた。
「どちらにしても、とりあえずレオン殿のところに行く必要があるだろう。」
レパントが彼を軍師として招く方向で進む発言をした。
まわりも、他に当てがない以上彼が最もということで納得した。
カレッカには、明後日に行くということに決めたところで、テスラが戻ってきた。
「ヘリオンさんは、明日午後に到着とおもいます。」
と伝えた。
続きは、ヘリオン到着後という事で解散となった。

モラビア城には、兵士はもちろん元解放軍のメンバーが続々と集結し始めた。
「やい、じじい!なんで来たんだ?
 まだおかしな実験を繰り返していたんじゃなかったのか?」
「こら、ゲン!じじいは、やめんかい!
 それにわたしの錬金術にケチをつけるんじゃない!
 それにわたしは、共和国を作った1人なんだから来るのは当然じゃ」
「ほぉ、強気だねぇ。歳を考えろよ、じじい。」
「まだ、じじいと言うか!」
ゲンとカマンドールは、いつもと同じように喧嘩をしながらやってきた。
ゲンの大工の能力とカマンドールの発明は解放軍にとって相当な役割を担ったのは事実
である。

マ・ミ・ム・モースの鍛冶屋軍団も現れすでに武器を鍛え始めていた。
さすがにメースは引退したので来ることはなかった。
ジーンも次々と魔法使いに封印球を宿していた。
ロックも大金庫をしっかり封じてからやってきて、モラビア城の倉庫を管理し始めた。
どこかでうわさを聞いたのかオニールもやってきたが、相変わらず噂を流すだけであっ
た。
しかし、すでに共和国を離れた者はもちろん、キルキス、バレリアなどは東側の復興の
ため、離れることができず、現在は不参加となっている。
今回は、トラン城がジョウストン都市同盟から遠すぎるためモラビア城を拠点とした
そのためある程度の不満が出てしまうが、城自体は良くできているし、貧乏な解放軍の
時と違い、寝具も良くなったのでそんなに悪い評判でもないようである。
こうして今度は解放軍としてではなく、共和軍として再結成したのである。
ヘリオン到着直後に結成集会を行い、今後の戦いの意欲を出したのである。
その後、再度会議を行いヘリオンから話を聞くことになった。

そして、ヘリオンを含めての会議の再開

レパントがいままでの経緯を話すと、
「なるほど、これはやっかいなことになりますな。
 できれば関わりたくない相手というのは間違いないでしょうのう。」
ヘリオンは冷静ながらも、なにかおびえているという感じでった。
「ではフェリウスが、なにを作っているのかわかるんですね。」
カスミが、ヘリオンのおびえを取るために、介抱しながら聞いた。
「はっきりとはわからんが、昔にこういう出来事があったという話を聞いたことがあ
 る。その状況が今回のに近いような気がしてならないのじゃ」
ヘリオンのおびえは止まらなかった。
「申し訳ないですが、その話しをお聞かせ願いたいのですが。」
ソニアがその話を聞こうとお願いした。
「しかし、ソニアさん。ヘリオンさんはそんなに話せる状態ではないようです。」
カスミが止めようとしたが、ヘリオンは
「いや、大丈夫。大事な事じゃ。話してみよう。」
「お願いします。ヘリオン殿」
レパントもお願いした。
ヘリオンが、むかしまわりの人間を恐怖におとしいれたある魔導師の話を始めた。
「いつの話かは分からないが、とにかくわたしが生まれるより以前の話しらしい。
  ある地方に、魔法の力だけで生きる国があった。・・・・
ヘリオンが重い口調で話し始めた。

「エスティア」 魔法の力を糧にして成立している国。
穀物を作るのも、狩りをするのも、光熱なども全て魔法なしでは考えられないという
生活なのである。
そして、争いも・・・・
なぜここまで魔法に執着しているのか?
この国を作った者が魔法能力に優れていたからという説もあるし、この国の主要信仰
でのとある集い時に、神からそういうお達しがあったとか、通りすがりの魔導師が魔法
でこの国を救ったからとか色々あるのだが、真実は不明である。
それにこの国の住民自身は全く気にする様子はない。
しかし、魔法は便利だがそういうものでも長年使っていると不満というものが出てくも
のである。
純粋な魔法使いと言えるのは、そんなに居るものではない。
1000人のうち1人でもいれば良い方である。
だいたいの者は封印球の紋章の力を使っているのである。
あとはその封印球の紋章の力をどれだけ出せるかということになるわけである。
その点、純粋に魔法使いといえるものは紋章を宿すことなく、使える魔法を習得してい
る。しかしそれでも1系統が限度である。
また紋章を宿した方が威力が高くなる事がほとんどである。
それをも越える者はなかなか現れないと言われている。
封印球の紋章は一度に1つしか宿すことができない。
とすると当然、仕事によっていちいち変えなくてはいけないのである。
家族で分担を決めて行うというのが普通であるが、それでも間に合うわけがない。
この手間がそのうち不満となってきた。
また、戦いとなるとさらに深刻になる。
最低でも何人かでパーティーを作って戦いを行う必要になる。
ある程度の能力を持つ者は、宿す紋章を変えることができる。
しかし、戦闘中にとっさに変えるのは不可能である。
となると1人で戦いを挑むのはなかなか難しくなるのである。
そこで国の魔法研究者は、ある研究・開発を始めた。

封印球の紋章の合成である。

まずは封印球の研究を始めた。
やっと合成方法を開発しても、お互いの力が反発し球に納めることができなかったり、
火と水を掛け合わせようとすれば互いに干渉しあい消滅した。
100年以上かかってようやく完成した1作目は、2つの効果が同時にえられる物で
あった。
要するに2人で唱える合体魔法を1人で使えるという物であった。
しかしその分、魔力も倍近く必要で、片方しか要らないのに両方の効果が必ず発生する
ので、すぐにすたれてしまった。
その後の賢明な研究で、とうとう独立して使える物が登場したのである。
そしてこの封印球が一般化し、1人でいくつもの魔法が使えるようになったという。
ところがこれが、ある最悪の事件を引き起こしたのである。

エスティアの外れに、人口がおよそ1000人程度のノイという小さな村があった。
この村では、いまだに通常の封印球を使っている。
1人で複数も魔法を同時に使うと言うことは、絶対に欲望を生むという考えである。
パーティーというもので行動していれば絶対に自分勝手には行動できないし、単独行動
で事を起こせば、ほぼ確実に死を招くことになるからと言うのは先ほどの説明からおわ
かり頂けると思う。
ということで、この村は平和でのどかに暮らしていたのだが・・・
数年前にある事故が起こった。
ある男が崖から転落して死亡したのである。
この男は妻が病気で早く亡くして以来、一人息子であるタリスを一生懸命育てていた。
聞いた話では、獲物を追いかけた際に誤って足を滑らせ転落したという。
タリスは孤児となったが、興味があった魔法の勉強を一生懸命おこない、生まれながら
の能力が非常に大きいこともあって、村で一番の魔導師となった。
そして封印球を使わなくても、風を操ることができたのである。
性格も温厚でまじめな性格から将来、村の魔法関係を担う者になると言われていた。
しかし、タリスが20歳の時に2つの衝撃的な事実を知ってしまった。
ひとつは、封印球には合成されているものがあるという事である。
この村では合成された封印球のことは教えないことになっていたが、タリスが偶然見つ
けた本に載っていたのだ。
魔法を学ぶ者にとって興味がない訳がない。しかも若い者にとってはなおさらである。
もう一つは、自分の父は事故で死んだのではなく、ふとしたことから殺されたというこ
とであった。これはたまたま立ち聞きして知ったのである。
その際に村長も関わっていたという・・・
怒りに震えたタリスは村長宅に走った。
「おや、どうしたのかね?タリス」
タリスが事実を知ったことをもちろん知らない村長は、タリスの表情に驚いた。
「ひとつ聞きたいことがあります。」
タリスは少しだけ落ちついた様子になったが・・・
「なにかね?」
「わたしの父親は本当に、事故だったんですか?」
「なにを、薮から棒に。彼は本当に残念なことになってしまった。」
「誰かが殺したんじゃないんですか?」
「なっ、なにを言うんだい。この村にそんなことをする者が居ると思うかい?」
村長は、怒りを表したが、明らかに動揺の色も若干ではあるが出ていた。
「わたし、聞いてしまったんです。父親が殺されたという話しを」
「それはなにかの間違いじゃろ。君の父は確かに事故で死んだんだ。
 たぶん疲れて聞き間違えたんじゃろ、今日は帰って休んだらどうじゃ。」
結局、真実はわからなかった。
彼はしかたなくある方法を使うことにした。風を操って遠くの音声を自分に流すという
魔法を使うことにしたのである。
ただ、あまりにも邪道な為、今までは封印していたが・・・
早速、村長宅での話を聞いた。
「まったく誰じゃ。あのことを外で話したのは・・・」
村長が、まずいという顔をしながら言った。
「とにかく、なんとかごまかすしかないでしょう」
町の警官役である男が言った。
「わたしも当時止められれば良かったのに、あの2人を止めることができなかった。」
「村長、あなたが悪いわけではありません。あなたの息子さんとたまたま口論となって
 、その勢いで彼を崖へ落としてしまったんですから。」
タリスは愕然とした。自分の父が村長の息子に殺されたとは・・・
しかもその息子はタリスの父が死んだあと、なぜか旅に出発したという。
事件を黙殺されたのだ。
言い争った父親も悪いかもしれないが、それを隠していたのが許せなかった。
タリスは、即日に村を捨てエスティアの首都である、グマールに向かった。

10年後

ノイはいつも通りの風景が続いていた。タリスが失踪してから相当たったため、すでに
忘れられた存在となっていた。
事件の犯人である村長の息子も呼び戻され元の生活をしていた。
ところがある日、とんでもないことが起こった。
村の一部が一晩にして、跡形もなくなってしまったのだ。当然住んでいた者も全て・・
最初は夜中に起こった竜巻かと思われたが、跡形もない上に竜巻が通った道もなかった
のである。それに夜中といえども、竜巻が通ったらすぐわかるはずである。
魔法にしても、村の者はこんなものは見たことがないのである。
原因が、全くつかめない日が続く。
村の人々は「今度はわたしが・・・」と恐怖を感じ夜も眠れなかった。
数日後、偶然にも1人の若い旅人が通りすがった。
歳はまだ15歳程度にしか見えなかった。
この少年は、村が消えてしまったところを見て、悲しそうな顔をした。
どうやらこの現象をある程度知っているようである。
その少年に気が付いた1人の村人が、少年を村長宅に案内した。
「あの跡を、君はご存じなのでしょうか?」
少年相手といえでも、なぜか口調がこうなってしまう。
この少年は見た目には少年だがすでに何年も生きているという雰囲気があるのだ。
右手には何やらグローブのようなものをはめているようだが、なんだかわからなかった
少年は、悲しい表情を出しながらこう言った。
「あれは魔法によるものです。」
「なに!いくらなんでもあんな事ができる紋章は聞いたことかないですぞ。」
驚きの表情で村長が言う。
「方法はいくつかあります。ひとつは、多人数で魔法陣を作り紋章の力を増大させる
 こと。戦争時によく使われます。しかし、この方法は誰かに気付かれるはずです。
 それに今回のこの魔法はなにかが違う。」
「とすると少年よ、あの魔法は・・・・・まさか! 合成された封印球で!」
「その可能性がいちばんですが、ああいうものを見たのは初めてです。」
その場にいる面々は考えこんだその時。
「た、大変だ!怪物が村の中に!」と外で叫び声がした。
「なにっ!」村長が『なぜだ?』という表情で立ち上がる。
少年も外へ飛び出した。
外には、普段見ない怪物が村人を襲っていた。
村人は、魔法で対抗するが、なぜか怪物は一度受けた魔法に免疫を持ってしまうよう
だ。この村は合成された封印球を使っていないので、こういう怪物には対抗しようが
ない。それを知っていたかのように送り込まれたのだ。
通常の武器というものはもちろん使わないので魔法しか手段がなかった。
さらに奇襲のためパーティーを組める時間もなかった。
人によっては攻撃の封印球から紋章を宿す前に、倒されていた。
少年は怪物がやってくる方向へ向かっていった。村長達も後を追う。
少年は、弓を使って怪物達を倒していった。予想通り武器には弱いようだ。
少年はなぜか魔法を使おうとしなかった。
魔法に免疫を持つというのが、わかったというのが主な理由のようだが、それだけでも
ないようだ。
一発で倒せるほどの魔法の能力があるのに使わないという感じであった。
並以上の能力はある村長にはそれがわかった。
そして、村を出て少し行くと異様な光景を目にすることになった。
なんとある封印球から紋章が上がっており黒い渦を発生させ、さらにそこからあの怪物
達が次ぎから次ぎへと出てくるのだ。
「こんな紋章は見たことがないぞ」
村長がおびえた表情で、言った。
少年は無言のまま、弓を何度も引いた。
大半は出てくる怪物に当たったが、ひとつが紋章に向かった。
環境を変化させれば、紋章が消えるかもしれない。
キーン
しかし紋章は物理的攻撃を跳ね返すシールドが張られていた。
矢はあっさり弾かれたのだ。
少年は迷った。できれば使いたくなかったものを使おうか・・・
しかし、ここで使わないと大変なことになると判断した少年は右手をゆっくりと上げた
少年の指先からある紋章が浮き出た。
村長達がいままでに見たことがないものであった大きな鎌を持つ死神の紋章である。
紋章が浮かぶと同時に、封印球と紋章にに巨大な暗黒の渦が轟音と共に出現した。
まわりの怪物を飲み込み渦が消えるのと同時に封印球と紋章も消えてしまった。
それと同時に村いた怪物も全て姿を消した。
村長達は唖然としていた。
少年は黙ったままであった。
しかし村長はこれを見て、この渦が原因ではと考えてしまった。
「少年、もしやこの方法で村を消したのではないか?今回のも君が仕組んだのか!」
村長の顔は、怒りに満ちあふれていた。
少年は黙ったまであった。
しかし、ちゃんと考えれば少年が犯人だと矛盾する点がある。
彼が消滅させたとすれば、わざわざ村に入る必要はない。
怪物騒ぎも犯人とすれば、この魔法を使わないと倒せないというようなことはしない。
これだけの轟音がすれば誰か気が付くはずである。
警官がそれに気が付き村長に説明した。
しかし村長はまだ納得していないようだ。

誰がやったのか・・・

少年は、これ以上この村にいるべきではないと考えて立ち去ろうとした時、ある声が
した。
「まさかここで、この魔法が見れるとはね。」
正面の林から1人の男が出てきた。
その顔を見た瞬間、村長達は驚きとおびえが浮かんできた。・・・タリスである。
「まさか、こんな少年がソウルイーターを使っていたとは。驚いたもんだ。」
「ソ、ソウルイーターじゃと!」
村長がまた驚きの表情を上げた。
魔法を志すものでこの名を知らない者は居ない。
世の中には、27の真の紋章があると言われこの力は絶大であるらしい。
この国にもいくつかあるらしいが所在は不明である。
「少年よ、いままでそれでどれだけの魂を喰ってきたんだ?」
タリスが聞く。
もはや昔の雰囲気は跡形もなくなっていた。
少年は黙ったままであった。
ソウルイーターはその名の通り魂を力の源とする呪われた紋章である。
少年が使うことをためらっていたのはこれが原因であろう。
今度は村長が聞く。
「タリスよ、おまえがこの犯人なのか?」
「そうですよ。」
タリスはあっさり答えた。
「な、なぜこんな事を。」と村長。
「けっ、なにをいまさら。
 おまえ達が父親を殺したおいて、あとは気楽に暮らしやがって!
 しかも俺にはずっと事故と偽っていたのが許せなかった。」
村長はなにも言えなかった。
少年はふと思った。
『いや、これだけではない。いくら何人かで黙殺していたとしても関係のない他の村人
 全員を殺すはずは・・・』
「あとはなぁ、首都で色々勉強していたら色々な封印球を作るのが楽しくなったんだ。
 しかも強力なのをな。
 合成する度に強力な魔法に進化する新しいタイプの合成封印球だ。
 それを使ってみようと思ってな。
 当然この力で村長、おまえらもあの世に行ってもらう。」
タリスが続けて平然と言った。
タリスは、封印球を合成するうちに、偶然にも合成する度に強力になっていく合成方法
を発見した。しかも村への怒りからか、それで人を思いのままにという性格が誰にでも
少しはある心の悪魔によって増強され、打ちつけられてしまったのだ。
少年は、この人も相当な不幸と思った。
自分もこのような呪われた紋章と付き合わなければいけない不幸を持っていた。
当然、天涯孤独になってしまう。タリスもその孤独のひとりなんだろうと思った。
少年はこのままなにも言わずに立ち去ろうとした。
これ以上関わると、またあれを使わなくてはいけないからと感じたからである。
逃げたと思われても仕方がない。
それ以上にこれを使うのが嫌なのだ・・・
「ちょっと待て!」
少年が振り返る。タリスであった。
「おまえにも用がある。こいつらはいつでも処理できるが、おまえは違うようだ。」
村長達は、腰を抜かしながらも必死で逃げようとしたが、
「影縫い!」
タリスが魔法をかけた。影を地面に縫い付けて動きを止める方法である。
影に針状の紋章が刺さっている。もちろん晴れている時などで影がないと使えない。
今日はこの状況とは裏腹に雲ひとつ無い良い天気であった。
「さて、これでゆっくり話しができるな。」
タリスが、少年に近づいた。少年は相変わらず黙ったままである。
「話は簡単だ。おまえの持っているソウルイーターの力をわたしの封印球に合成させて
 もらう。まぁ、君は使えなくなるが我慢してくれたまえ。」
「それはできない。」
少年は一瞬で返した。
たとえこの呪われた関係でも逃げ出すことはできなかった。
自分でこの紋章が野望を持つものに使われないことを守らなくてはいけないのである。
「ならば実力で奪い取るまでだ。」
タリスは、詠唱を開始した。
開始した瞬間、当たりを包む気配が変わった感じがした。
どうやら他の魔法は全て、封じ込む環境にしたようだ。
さらに、少年が持つソウルイーターにも早くも変化が現れた。
これでは先制攻撃ができない。。
ソウルイーターの紋章が現れ、それがタリスの持つ封印球に向かって飛んでいった。
タリスの持つ封印球は暗黒の渦しか見えなかった。
「これでこの力がわたしのものとなった。さっそく使ってみるとするか。」
村長達の顔はすでに青白いのを通り越していた・・・。
少年も、もはやこれまでかといった表情であった。
最後の手段として弓を引きだした。
「ふっ、そんな弓でわたしを倒すのは無理だ。おとなしく実験台になるが良い。」
そう言うとタリスは封印球にある謎の紋章の力を解放しだした・・・・
封印球から、夜より暗い闇の渦が現れた。
しかし、それは少年達ではなくタリスを包みだした。
「な、なぜだ!う、うぉぉぉぉぉ!」
タリスは絶叫と共に渦に巻かれた。
渦の中からソウルイーターの紋章が飛び出し少年の腕のグローブへと戻った。
『どういうことだ?』少年は不思議に思った。
しかし、タリスの姿が再び表したとき、おぼろげながら謎がわかってきた。
タリスの目にはもはや、瞳がなかった。
ただ単に青白く光っているだけであった。
どうやらソウルイーターが今まで喰ってきた魂を操ることができなかったのである。
その魂は希望を途中で絶たれた者ばかりである。
そのため欲望、ねたみ、悲しみといったものが全てタリスに入ってしまったのである。
これを操るにはよほどの精神力かこの魂達以上の欲望がない限り無理であろう。
ソウルイーターを受け継ぐ者は、逆にこの呪われた関係によりこの魂に乗っ取られずに
済むのかもしれない。
タリスの場合直接ソウルイーターを取り出すようなあまりにも無謀なことをしたためで
ある。
タリスはもはや人ではない。
欲望という魂に操られている人間の形をした道具である。
タリス(いや、仮に魂の人形「ソウルドール」とでも名付けようか)は、ゆっくりと
こちらに歩いてくる。魔法の詠唱をしながら。
少年は、再び右手を上げた。
相手は、魂である。
ソウルイーターにとって魂を倒すことは、朝飯前というより朝飯自体と言えた。
もはや理由を説明する必要はないであろう。
ソウルイーターの紋章が光ると、黒い渦がソウルドールを包み、そして少年の持つ
グローブへと吸い込まれていった。
ソウルイーターの前では、魂はどうしようもないのであった。
タリスの野望は、自分の力を知らなかったのと、ソウルイーターを甘く見すぎていたた
めに、崩れていった。
魂の抜けたタリスの体は、何事もなかったように横になっていた。
まさに眠っているかのように・・・

少年は、今までにない悲しい表情をしていた。
少年が受け継ぐ前からずっと長い間ソウルイーターが喰っていた魂を、初めて目の当た
りにしたのだ。
自分は魂を喰わせていたつもりはなかったが、自分が会ったことがある人の雰囲気を持
つ魂を感じとっていた。自分と親しい者の魂も喰わせていたのである。
それも1人や2人ではなかった・・・
各地で、戦乱に巻き込まれたりするのは良くあることであった。
その際に何度か使わざる負えないことはあったが、まさか戦死した仲間の魂まで喰って
いたとは・・・
他にも、数え切れない悲しい出来事を思い出してしまっていた。
少年は、いままでにない悲しい気持ちにさせてしまったこの地を早く去ろうと歩き出し
た。術者の死亡により影縫いが解けた村長は去ろうとする少年を見て、こう言った。
「ありがとう少年よ。そして、すまない・・・
 少年よ、まだ名を聞いていなかったが、最後に教えてくれないだろうか?」
少年は、振り向いて一言こう言って去っていった。
「テッド」と・・・

「なに!テッドだと?」
ソニアが驚きの声を上げた。
ヘリオンが話に、テッドと名乗る少年がいたからである。
ソニアも帝国での噂でテッドが捕まっていたことを知っていたし、モリスの友人だとい
うことも知っていた。
しかし、ソニアには同一人物という確信はなかった。
ここにいるメンバーは、テッドとソウルイーターの関係のことをよく知っているものは
居なかったのである。
バルカスもそんな奴が居たなぁという程度である。
モリスが帝国にいたときに一度戦った程度だからだ。
同一人物と確信できるのは、モリス、グレミオ、クレオ、パーン、過去のテッドに会っ
たビクトール程度であろう。
「この後、村長とその息子は責任を取って村から去ることになったそうじゃ。
 また、この事件は国中で大問題になり、やがて封印球の合成の研究は中止され、
 いままで作られた封印球はもちろん、その資料まで全て処分したそうじゃ。
 そのため現在は、合成された封印球は存在していないといわれている。
 今回の話が、フェリウスという男に関係しているかは、わからないが可能性はあると
 思えるが。」
ヘリオンが話しを締めくくった。
「合成された封印球をフェリウスが作っているとしたら大変ですぞ。
 村の一部を消し去るほどの強い魔法を1人で操れるとすれば・・・」
レパントが緊張した思惑で言う。
「簡単には勝てませんな。」
カシムも思わぬ話しを目の当たりにして戸惑っている。
「まだ、フェリウスがそういう方法を使ってくると決まったわけではない。
 まずは、今度攻めてこられたときのために軍を整えることとレオン殿を呼んで対策を
 練ることだと思う。」
レパントがとりあえず締めた。

確かに、フェリウスがこの研究をしているという確信材料は、ほとんどないのが現実で
ある。まずは、今後のために軍を補強するのが大事であるが、もしフェリウスが封印球
を作っているとすれば、状況はかなり悪いと言える。相手は簡単に何人もの人を一瞬で
あの世に送れるのだから・・・
ヘリオンとビッキーは、合成封印球の対処法がないのかを調べ始めた。

▽第3章「女魔法剣士」
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