新たなる野望者 第5章

「古き友」


△第4章「よみがえる禁断魔法」
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「え?あの大金庫から、また何か盗まれたんですか?」
キルキスは思いも寄らぬ話に驚いた。
バレリアが対して、
「そう、ドワーフ族の発明のひとつらしい。
 ちょっとした用事で通りかかったんだが、だいぶ慌てていた様子だった。
 あいつらは自分たちで何とかする感じだったけどね。
 私にも結局何が盗まれたかすら教えてくれなかった。」
「でも、大金庫はロックさんが管理していたはずではないでしょうか?」
「例の問題で、出向いているようだからね。
 ただちゃんと閉めていったはずだけど。」
「とすると、それを開けられる誰かが盗んだということですか?」
「基本的にあれの開け方を知っているのは、ロックだけだと思うけど。
 とするとよほどの腕前の者が・・・」
「ねぇキルキス、それでどうするの?」
シルビナが、キルキスの服を引っ張りながら問いかける。
「とりあえず、その金庫に行ってみませんか?」
「このまま黙っているのもしゃくだからね。
 でも、ここを空けても大丈夫か?」
「大丈夫です。どうやらスタリオンがほかのエルフの村に風のように現れては、この村
 のことを宣伝しているようで、何人か集まってきましたから。」
帝国軍の攻撃でエルフの村も壊滅状態に陥ったが、現在はキルキス達の努力の甲斐もあ
り、だいぶ昔の活気を取り戻しつつあった。
「なるほど、それが原因だったのか。」
バレリアは、意外な理由に半分苦笑した。
「そうだ、クロミミさんにも協力してもらいましょう。
 きっと助けてくれるはずです。」
キルキス、バレリア、クロミミ、シルビナの4人は、例の大金庫の前に立った。
当然ゴンも付いてこようとしたが、クロミミに「おまえ、るすばん」と言われ、しぶし
ぶ村に残っている。
シルビナも危ないかもしれないので留守番をさせようとキルキスは考えたが、やはり言
うことを聞かずに無理矢理に付いてきてしまったのである。
「なにか、手がかりはないか探してみよう。」
バレリアの一声でみんなは調査を開始した。
大金庫は、元のように封印されていた。
たぶんドワーフ達が元に戻しておいたのだろう。
よって中を調べることはできない。しかし外の方に手がかりはあるのかは疑問であった
「ねぇ、クロミミ」
「シルビナ、どうした?」
「犯人とか手がかりなどのにおいとか、わからないの?」
「こらこら・・・」
バレリア、キルキスはとうとう口にしてしまったシルビナのセリフに少々苦笑する。
実はバレリア、キルキスともできたらその方が良い結果が出ると思っていたが、まさか
クロミミに頼むわけにもいかないと思い我慢していたのだが・・・
「おれ、そんなことしない。」
当然であるが、クロミミが快諾するわけがなかった。
本当はできるかもしれないが(たぶんできるだろう)それはコボルド族のプライドが許
さないであったに違いない。
シルビナはちょっと気まずくなったのか、目を反らそうとすると地面にひとつの光を見
つけた。
「ねぇ、ここでなんか光ったよ。」
一同が注目する。
バレリアは、ゆっくり近づきその光っているものを摘んだ。
「こ、これは・・・」
バレリアに驚きの表情が浮かぶ。
「なんだ、ただのイヤリングじゃない」
シルビナは、残念そうに言う。
しかし、バレリアはそれには全く耳を傾けずに考え込んでいるようだった。
他の者にはどう見てもただのイヤリングにしか見えないのだが。
「バレリアさんどうしたんですか?」
キルキスが問いかける。
しばらく間があってからやっと周りに気づいたバレリアは
「あっ、どうした?キルキス」
と答える。
「わけありか?」
クロミミが問いかける。
「ああ、実は・・・」
「ここでは何なので一度戻りましょう。」
キルキスの意見に皆は賛成し一度エルフの村に戻ることにした。
帰りの道中、バレリアはずっとそのイヤリングを見ながら考え込んでいた。
「さっそくどういう事か聞きたいのですが、よろしいですか?」
キルキスの家の一室である。
4人以外には誰もいない。
「今から、1年くらい前の話なんだけど・・・
 そう、エルフの村が危ないと聞いた頃だった・・・」

「ねぇ、バレリア。あなた本当にこの地位を捨てる気なのかい?」
 ここは帝国の城、バレリアの部屋である。
 ある女性が、賢明にバレリアの意志を止めようとしていた。
「ああ、レイア。
 私の生まれ育ったこの地を焼き払うなんて認めるわけには行かない。」
バレリアは身支度を整えながら言う。
「でも、あなた一人でなにができるの?」
「確かに何ができるかわからない。でも、レイアもわかるであろ?
 幼いときから一緒に走り回っていたこの地を壊そうとしているんだよ。
 あなたはそれを許せるか?」
「確かにそうだけど、私には無理よ。」
「まぁ、あなたを無理矢理に連れていく気はないから。」
「で、本当にどうやって帝国に対抗するの?」
「とりあえず、エルフの村に相談しに行くさ。
 それに反乱軍というのがあるというのを風の噂に聞いたしね。」
「でも、エルフの村に行ったって無駄でしょ?
 エルフは人間を嫌っていると聞いているし・・・取り合ってくれないよ。」
「ああ、でももう決めたんだ。」
「止めても無駄のようね・・・、そのかわりこれを持っていって。」
レイアはそう言うとポケットからひとつのイヤリングを出した。
「私たちが子供の時にあなたすごく欲しがったでしょ?
 これを片方持っていって。」
「確かにとても気に入ったものだな。わかった、こんど絶対に返すよ。」

バレリアは、手持ちの小さな袋からからひとつのイヤリングを取り出した。
間違いなく、大金庫の前で拾ったものと同じものであった。
「私の住んでいた村のある商人の娘で、私と同い年だったんだ。
 小さいときからいつも一緒に遊んでいた・・・
 私が士官となった後も彼女は私と同じ城で働いて、私と変わらずのつきあいをしてい
 たんだ。」
バレリアは懐かしそうに語っていた。
「言いにくいのですが、その片方が金庫の前に落ちていたとすれば・・・」
キルキスは、本当に言い難そうに聞いた。
「でも、たまたま偶然同じイヤリングだったんじゃないの?」
シルビナが、言い返す。
「このイヤリングは特別なもので、小さく番号まで彫ってある。ちょっと見てみな。」
みんなが2つのイヤリングをまじまじと見る。
その後、3人とも愕然とした。
2つのイヤリングには同一の番号が彫ってあったのだ。
「間違いなく、レイアはあそこに行った事になる・・・」
バレリアは言う。
相変わらず口調は重い。
「はんにん、レイアときまってないワン」
クロミミが言う。
「そうです。たまたま通りかかって落としてしまったかもしれません。」
キルキスも気を使う
しかし、あそこを金庫に用がある以外で通ることはまず考えられないのであった。
当然、バレリアもわかっていた。
バレリアは、
「とりあえず彼女が何か知っているかもしれないから会いに行こう」
と言った。
皆もそれに賛成した。
メンバーはレイアの実家に到着した。
しかし、その家にはもう誰も住んでいないようであった。
すでに廃墟と化しており、庭は特に荒れ放題であった。
「どうやら誰も居ないようですね。」
キルキスが辺りを見回しながら言う。
とりあえず、ここの家に住んでいた人たちはどうしたのかを聞き回ることにした。
しかし、ほとんどの人がここの家の話をするとなにも言わずに去っていくのである。
彼女が居ないまでも家族に聞けば、連絡は取れるはずだ。
「どうだ?クロミミ」
先に戻っていたバレリアが聞く
「だめ、みんななにもいわない」
「やはり駄目か、私も同じだ。」
「ねぇ、誰も教えてくれないよ。」
シルビナが残念そうに戻ってきた。
彼女も駄目だったようである。
あとは、キルキスだけである。3人は期待せずに待つことにした。
「やっと聞き出しました。」
期待をしていなかっただけに、これにはみんな驚いた。
「で、なにが聞けたんだ?」
「詳しいことは教えてくれなかったんですが、少し前にここからモラビア城への行き方
 を聞かれたと言う人が居ました。」
「モ、モラビア城?いったい何の用で。
 確かあそこは対都市同盟のために大統領たちが詰めているはずだが・・・」
バレリアは半信半疑であった。
まさか、レパントたちが?
レパントたちが撤退を余儀なくされた事実は、当然まだここには届いていなかったので
ある。
「やはり、間違った情報と思った方が良いでしょうか?」
キルキスもあまり信じていなかったようであった。
「いや、これしか情報がない以上、モラビア城へ行ってみるしかないだろう。」
今回の事件はあまりにも謎が多いとバレリアは考えていた。
いったい、なにが盗まれたのか。
レイアはこの事件に絡んでいるのか、そうでないとすればこのイヤリングはなにか。
なぜレイアの実家が廃墟と化しているのか。
なぜレイアはモラビア城へ行く必要があるのか。
モラビア城へ行く用があるとすれば、レパントたちが関係しているのか。
すべてが謎に包まれていた。
しかし、現在の状況ではモラビア城に行くしか手がかりはなかった。

モラビア城は、やけにひっそりとしていた。
共和国軍が居る以上もう少し人の気配があっても良いはずである。
バレリアたちは、妙な雰囲気にとまどいを感じていた。
「何でこんなに静かなんでしょう?」
「キルキスも感じるか?わたしもそう感じるんだ。
 確かここには大統領達と共和国軍が居るはず。
 しかし、人の気配がほとんど感じない。」
「ひと、いる」
クロミミが気配を感じ取ったようだ。
「とりあえず入ってみるしかないようだな。」
バレリア達はみんなでうなずくと、城へと向かった。
しかしその時、
「ちょっとあなた達、待ちなさい!」
後ろから声がした。
そこには一人の女性が立っていた。
歳は30よりは確実に若かっ
た。髪は短く切り見た目には華奢であるが、腰には長剣を従えていた。
剣を使えるようである。
バレリアは振り返ると驚きの表情を見せた。
しかも、相手も同時に驚きの声を上げた。
「バ、バレリアなの?」
「レイア! やっぱり・・・」
会えたうれしさよりも、ここで会ったというのはまた複雑な心境をバレリアに与えるこ
とになった。
「『やっぱり』ってどういうこと?あなた私を捜していたの?」
レイアは、聞き返す。
バレリアは黙って、イヤリングを取り出した。
「あっ、それちゃんと持っててくれたんだ。」
しかし次の瞬間、彼女の表情は変わった。
バレリアがもう一つのイヤリングを取り出したのである。
「ど、どうしてあなたが?確かに私はなくしたんだけど。」
「大金庫の前に落ちていた。」
バレリアはあっさり本当のことを言った。
うそを言う理由がないからである。
これが功を奏したのか、そうとは言えないのか、レイアの表情が見る見る変わっていっ
た。
昔の彼女では見られない、相手を良くは見ない表情であった。
「そうよ、私がやったのよ。モラビア城の現城主に頼まれてね。」
「な、なにぃ。嘘だろ?」
バレリアは、あっさりと返ってきた答えに戸惑いを見せていた。
「いや、本当よ。」
「いったい何のために?それに城主とは誰なんだ?ま、まさか・・・」
「城主の名は言うわけにはいかないわ。
 悪いけど、今はもうあなたと会っていた頃の私ではないの。
 気の毒だけど事実を知られた以上は、幼なじみでも容赦できない。」
と言いながら、腰の長剣を抜きかまえた。
その姿から意外と経験はあるようである。
「おまえと戦う気はないぞ。まず訳を聞かせてくれないか?」
バレリアは、説得に入った。しかし、
「あなたにはなくても私にはあるの。早速いくよ!」
と言い終わるかの時にすでに、バレリアに向かっていた。
しかしバレリアの方が経験は上だけあって、これはあっさりとかわすことができた。
「バレリアさん、私たちが。」
説得は無理と判断したキルキスが問う。
「だめだ!
 それだったら私が自ら行く。手出しは無用!」
バレリアも説得は無駄と判断して、まずは戦闘意欲を欠かせる方法をとることにした。
大けがをさせない程度にして、相手の気力をなくすのである。
「やっとやる気になったようね、バレリア」
「おまえも、そこまで剣が使えるようになっていたとはね。」
「バレリア、私があなたより上だと言うことを証明させてあげる。」
レイアは、剣をかまえ走り込んできた。
同じパターンかと横にかわそうとした瞬間、今度はレイアが片足を踏み込み、バレリア
の避けた方向へと飛んだ。
先ほどと同じ方向へ逃げるだろうと、予測していたのであろう。
しかし、バレリアはすこし微笑むと同時に連続技に入った。
『隼の紋章』である。
連続して、剣による突きと蹴りを入れたあと、最後に剣でとどめを刺すという連続技で
ある。
あまりにも速い連続技のため、隼の名が付いている。
しかし・・・
「隼は見切った!」
レイアが叫ぶと同時に、バレリアはバランスを失いその場に倒れ込んだ。
周りの人間、さらにバレリアでさえもなぜこうなったのかはわからなかった。
それだけ一瞬の出来事だったのである。
「あなたのこの技は知っているわ。だからこそ密かに返し技を研究していたのよ。
 今度はこっちの番ね。」
「バレリアさん、やっぱり僕たちも」
「クロミミ、たたかうワン」
「私もがんばる!」
3人が、戦いを挑もうと武器を構えるが・・・
「やめるんだ!」
バレリアが叫ぶ。続けて、
「わがまま言ってすまない。けど、彼女はわたしが・・・」
3人は、武器を構えたまま、その場にとどまっている。
「きれい事を言うなんてずいぶんと余裕ね?」
「どうしたんだレイア!
 昔のあなただったらこんな事をするはずはないのに。」
「わたしは、昔のレイアではないわ。
 そういえば、後ろの3人が参加できないのも暇そねぇ。
 せっかくだから、良い相手を呼んであげる」
ピィーー!
レイアはそう言うと、大きく手笛を吹いた。
あたりに高い音がこだまする。
すると、バレリアを除く3人の前に黒い陰が2つ登場とする。
「これは・・・ア、暗殺者」
バレリアが、ひと目で相手を判別した。
全身を黒い服で覆った、男が二人立っていた。
一瞬忍者に見えるが、忍者の持つ義理や人情などは全く持ち合わせていない。
心にあるのはただ相手を死に追いやるだけである。
「バレリア、あさしんてなに?」
クロミミは、全く知らなかったようだ。
「暗殺者(アサシン)とは、殺し屋のことですよ。」
キルキスが、フォローを入れる。
「さすが詳しいわね、バレリア。
 これでこっちも心おきなく戦えるというものでしょ?」
レイアが勝ち誇ったかのように話す。
「レイア、あいつらを雇うというのがどういうことかわかっているのか?」
「正確に言えば私が雇ったわけではないわよ。
 さて、そろそろこちらから行かせてもらうわよ」
レイアは、長剣を引き出しバレリアに突進する。
「させるか!」
バレリアも、「覇王7星剣」を構え対抗する。
ガシュ!
互いの剣が交差する。まずは力比べと言うところだろうか。

2人の暗殺者は黙ったまま、3人に向かってじわりじわりと間合いを縮めていた。
「キルキス、この人たち怖い」
シルビナは今まで見ない雰囲気に飲まれそうであった。
「大丈夫だよシルビナ、こっちは3人だ。」
「クロミミ、まけない」
確かに数の上では、勝っている。
シルビナを頭数に入れて良いのかは疑問ではあるが。
しかし、シルビナの弓の腕も上がっているのは事実であった。
先手必勝!
キルキスとシルビナは1人の暗殺者に向かって、乱れ撃ちを放つ。
しかし、暗殺者の持つ剣でほとんどが落とされた。
それでも、2人は止めずにさらに放つ量を増やした。
さすがの暗殺者もこれでは払えきれないと思ったのか、払えるだけ払いながら真横に飛
ぶ。
しかし・・・
シュッ!
1本の矢が、暗殺者の腰元をかすった。
少量の赤い空気が混じったが、相手の戦闘能力を欠くにはまだ遠すぎた。
クロミミも「とってもよい剣」を構え、もう一人の暗殺者に向かう。
相手も、腰から小型の剣を取り出し対抗する。
「そんな剣、クロミミたおせない」
クロミミが剣を振ろうとした瞬間、暗殺者は機動力を生かして一気に横へと流れる。
そして、一気に横へ回りねらいを定める。
しかし、クロミミも剣を振る直前だったため、それに対応し間合いを広げ直す。
一瞬だけ暗殺者が横へ流れるのが早かったようである。
だからと言って、少しでも遅すぎればクロミミの剣の餌食になっていただろう。

「レイア、いつの間にここまで腕を・・・」
「だから言ったでしょ。私は変わったって。」
確かに、1年以上会っていないわけだから、ある程度は変わっていてもおかしくはな
い。
しかし、レイアの変わり方は、1年程度で変わるようなものとはどうしても、バレリア
には思えなかった。
しばしのつばぜりあいの後、2人は同時に後ろに飛び、間合いをあける。
「こんどは、私があれを見せてあげるわ。」
レイアが気になる言葉を言うと、気負いを入れに入る。
ここで、叩きに行っても良いのだが、バレリアにも興味があったのである。
「あなたと同じ、隼よ!」
レイアは、それと同時にバレリアに向かっていく。
一瞬の戸惑いを見せたバレリアだが、自分も使っている技である。何とか避けられない
でもなかった。
バレリアは右側に飛んだ。
「うっ・・・」
バレリアの左手に、激痛が走った。一瞬の戸惑いが避ける速度を遅くしてしまった。
しかしここで左に飛ぶような素人がやる技をしてしまうほどバレリアは戸惑っていなか
ったようだ。
左に飛べば当然、利き腕である右手をやられていただろう。
レイアは続けて、バレリアに向かってくる。
隼はたぶんバレリアの感情を戸惑わせるために使ったのだろう。
しかし、その効果は十分あった上に傷を負わせることもできたのである。
バレリアは押され気味になっていた。
相手の剣を押さえるのがやっとであった。
利き腕ではないにしろ、左手の傷は結構重い・・・
バレリアは、一瞬だけだが力をなんとか出し、自分の剣を相手の剣に押し当てながら、
一気に後ろへ飛び大きく間合いを取る。
「やはり驚いたようね。あなたほどのキレはないけど。」
間合いを取られてしまった以上、この技の効果は終わってしまった。
相手の精神力が低ければ、この後も効果が続いたかもしれない。
しかしバレリアの精神力は、並以上のものはあった。
「まぁ、私も紋章の力を借りているだけだからな。」
バレリアは、何事もなかったように言葉を返す。
「確かに私にはそんな紋章はないから、かわされたけどね・・・」
バレリアは、あっさり心理攻撃をかわしたこととなった。
しかし、その代償は左腕の負傷であったかもしれない。

「シルビナ、この調子で弓を!」
しかし、暗殺者も同じ手にかかるような単純な者ではなかった。
弓の照準が定まらないように、左右に素速く大きく動きながら、キルキスに向かう。
キルキスも、弓を構えるが速すぎる動きに付いていけなかった。
間が狭ばると、暗殺者は腰から小型の剣を取り出す。
そして一気に、振ってくる。
カッ!
キルキスは何とか、弓でそれを押さえる。しかしあまり状況は良くない。
シルビアは、暗殺者のねらえる位置に素速く移動しねらいを定めるが、暗殺者もそれに
対応して、一度剣を離して動いては、再度キルキスに攻撃を仕掛ける。
接近戦に向かない弓では、この状況はあまりにも不利である。
キルキスは、防戦一方だったがこのままではいつかやられると悟り、ぼそぼそと言い始
める。
「炎の紋章よ、その力を我に与え一本の矢となり、突き燃やせ!」
暗殺者はこれを魔法と悟り、避ける体制に入る。それと同時に、
「火炎の矢!」
キルキスが炎を暗殺者へ飛ばす。
しかし暗殺者は軽く避けようとした瞬間、
「切り裂き−−!」
という叫び声と同時に、小さな空気の刃が暗殺者が炎を避けた方向へ飛んでいく。
シルビアが放ったのであった。
キルキスの詠唱に気を取られ、シルビアの詠唱には気が付かなかったようである。
ザン!
すかさず、方向転換を図るがさすがに間に合わなかったようだ。
なんとか体全体に受けることは避けられたが、右腕にもろに受けてしまったようだ。
右腕は、もはや動かなかった・・・
右脇腹にも若干の傷を受けていた。
暗殺者の戦意はもはやほとんどなく、利き腕を失ったショックから気絶していた。
「キルキス−−−−!」
シルビナが駆け寄ってくる。
「シルビナ、いつの間に覚えたんだい?」
「キルキスと一緒にいられるように練習したのよ。」
「ありがとう助かったよ。でもまだ終わってないよ。」
二人は戦いの続く、クロミミの方へ向かっていった。

クロミミも苦戦していた。
相手の動きが予想以上に速かったのである。
クロミミは、ゴボルドは素速く動けるのが当たり前(犬の仲間だからだろうか?)と感
じ、素早さを鍛えていったがこれだけ鍛えてもかなわない者が居るとは思わなかったよ
うだ。
しかし、相手も状況は一緒であった。
暗殺者仲間でも屈指の素早さを持っている彼でもなかなか刺せない状況は、彼に苛立ち
を与えていた。
両者は間合いを取りながら一気に駆け寄り、また遠ざかる。
この繰り返しであった。
この中へ
「火炎の矢!切り裂き−−−!」
ほぼ同時に、炎と刃が暗殺者の左側から襲う。
暗殺者はクロミミが居ない方向である左に避けたが、避けきれず右手を若干焼いてしま
った。さすがに、3人相手では不利と見たか最後の方法へ出た。
「踊る炎!」
暗殺者は、3人へ向かって大量の炎を踊らせた。
しかし、余裕で3人は攻撃範囲外へ離脱し難を逃れた。
クロミミをなかなか仕留められなかった、苛立ちがここで焦りを生んでしまったよう
だ。
もはや、最後の手段も絶たれた暗殺者は、この場を立ち去っていった。
3人は追う理由もないので、逃げていく暗殺者を見ているだけであった。

「どうやら向こうは片づいたようね。」
「まったく、役に立たない人たちね。」
「そうじゃないよ、あの3人が強いんだよ。」
「言ってくれるじゃない。」
2人は剣を素速く振るい、そして剣で防ぎながらの攻防を切り返していた。
剣が何度もぶつかり、その度に高い音が響きわたる。
そして再度、間がひらく。
「さて、そろそろ終わりにしようじゃないか。」
バレリアが、いつもの体制にはいる。
「隼なら効かないよ」
「何度も同じ事ができるのか!」
バレリアは、再度必殺技を試みた。
紋章の力は大きい。その力を借りているわけだから簡単には返せないはず。
しかし・・・
「くっ・・・」
「だから言ったでしょ効かないって。」
「な、なぜだ・・・」
バレリアは、不思議でしょうがなかった。
「あっ!」
「どうしたのキルキス?」
すでに戦いを終えて、2人の戦いを見ていた3人だがキルキスが何かに気が付いたよう
だ。
3人はいつの間にかバレリアたちとの戦いの場から離れていたようだ。
やや離れて二人の死闘を見ることができる。
「いまバレリアさんの必殺技がまた破られたけど、相手に近づいた瞬間、いつもより動
 きが悪くなって居るんだ。」
「え?そうだった?」
「大きな差がなかったので、最初の時は気が付かなかったけど。だからシルビナもわか
 らなかったんだろうと思う。」
「わたしそんなことないもん。」
 シルビナは、ちよっと怒った口調で返す。
「ごめんごめん。今度は良く見てね。でも、あれだけキレが悪くなっていればある程度
 の腕を持つ者なら返せると思う。」
「バレリア、あれつかえないのか?」
クロミミが今度は、聞く。
「そういうことになるかな。」
でも、なんでレイアに近づいた瞬間に動きが悪くなるんだろ?
キルキスは、その疑問が頭から離れなかった。
「どうやら、あなたの策も尽きた頃かしら?」
「そんなことはない、今度はあなたを倒す。」
再び、バレリアは挑んだが結果は同じであった・・・・
「キルキス、確かにそのようね。」
シルビアは、わかったのがうれしそうに話す。
「クロミミわかったワン」
キルキスは、クロミミさんはともかく、シルビナは本当かなぁ・・・と思いつつ、もう
一つのことに気づいていた。レイアの腰に1つの水晶玉があるという事に・・・
キルキスには最初は何のことかわからなかったが、バレリアが技をかけようとした瞬間
その水晶が光ったような気がした。
キルキスは、一か八かある方法で確認することにした。
キルキスはぼそぼそとしゃべり出す。
「キルキス、何で魔法なんか?」
キルキスはそのまま詠唱を続け、
「火炎の矢!」
炎の矢が一直線に2人の方向に飛んでいく。
しかしバレリアは、相手に夢中で剣を振るっていた。
レイアは避けようと思ったが、バレリアの攻撃で離脱できない。
「えっ!キルキス、このままだと2人とも・・・」
「バレリア、あぶない!」
シルビナとクロミミは同時に、心配の色を言葉に出した。
しかし、キルキスはそれを無視して様子をうかがっていた。
ただ、彼の額には汗がいっぱいであった・・・
とうとう炎は、2人に襲いかかろうとした。
バレリアもやっとその炎に気が付き、離脱しようとしたその瞬間、
「なに?」
クロミミとシルビナはその光景に、唖然としていた。
バレリアもその状況には驚きを隠せなかった。
なんとその炎は、レイアの腰にある水晶に吸い込まれていった。
レイアは、「しまった・・・」という表情を隠せないでいた。
「やはりそうだったか。」
キルキスは、冷や汗を腕でぬぐいながらつぶやいた。
「キルキス、どういうことなの?」
シルビナが不思議そうに聞く。
「それは後で話すよ。」
「けちっ!」
キルキスは、大声でバレリアに伝える。
「バレリアさん、紋章の力を借りずにやってみてください!きっとできるはずです。」
バレリアは、今のキルキスの攻撃であらかた気が付いたが、かといって紋章なしででき
るか疑問であった。
今までさんざん練習もしたし実戦でも使っているので、体は完全に覚えていた。
紋章の力が使えない以上、とにかくやってみるしかない。
「ちっ」
レイアは、見抜かれたことに気がつき舌打ちをした。
しかし、紋章なしであの技はできる訳がないだろうと判断し、やや冷静さを取り戻しす
すあった。
「いくぞ!」
バレリアは気合いを入れてレイアに向かう。
しかし次の瞬間レイアは気が付いた。
バレリアのスタート時のスピードにほぼ差がないことを・・・
これは返せないと判断し、避けることにしたが当然、最後までバレリアのスピード落ち
なかった。
レイアに、突きが入る。
この技が入れば逃げ切れるのは困難であった。
最初からバレリアは、剣でこの技を使う気はなかった。
レイアを殺す気にはなれなかったのである。
しかしこの攻撃で、完全にレイアの戦意はなくなっていた・・・

「良く気がついたな、キルキス」
バレリアが、キルキスに問う。
「そういえば、あとで教えると言ったじゃない。どういうこと?」
シルビナも説明を催促する。
「これです。」
キルキスは動けない、レイアの腰から水晶をもぎ取る。
「あなた、なかなかな事をするね。」
バレリアはキルキスの意外な行動に正直驚いた。
「バレリアさんが仕掛ける際、レイアに近づいた瞬間に急に動くが鈍くなったんです。
 さらに良く見ると、レイアの腰にこの水晶を見つけたんです。
 しかも光っていたような感じでした。その時こういう事かもと考えました。
 紋章を能力をこれが吸い取っているのではないかと・・・。
 その後、私が炎を出して確かめたんです。そして結果は案の定です。」
キルキスが、謎の水晶の効果を説明した。
「へー、これがねぇ。だから紋章の力を使わなければ大丈夫という事か。」
バレリアは、その水晶を受け取り眺めてみる。
「ううっ」
どうやら。レイアの意識が戻ったようである。
バレリアは彼女の方に振り返って、
「なにをいったい盗んだんだ?」
「実は私にもわからない、こういうものを盗んでこいと絵で示されただけ。」
「そうか・・・どうしてこんな事を?」
バレリアは寂しそうな表情で聞く。
「あなたが去ったあと、わたしはあなたに嘘を教えて惑わせたという罪を着せられ、
 逃亡する羽目になった。家族もきっと・・・」
「エルフの村のことか?」
「そう」
「帝国め、そんなことまでしていたのか・・・」
いまとなってはその帝国も滅んでいるが、バレリアは改めて帝国の非道さを許せないで
いた。
「わたしは、隣のジョウストン都市同盟に逃げ込み、途方に暮れていた・・・
 そこに1人の男が声をかけたのよ。」
「それが今の主人か?」
「そう、フェリウスというの」
「フェ、フェリウス?」
バレリアたちはお互いに顔を見合わせた。
フェリウスの存在は、共和国からの通信で知ってはいたが、いつの間にモラビア城が
彼の手に落ちていたとは・・・
「帝国から逃げ出してからは、帝国に対しての憎悪だけで生きていたわ。
 そのおかげで異常な訓練にも耐えてきた。
 いつかこの恨みは晴らすと。」
「でも、帝国は滅んだぞ」
「それは風のうわさで聞いていたわ。
 でも、もう後戻りはできなかった・・・」
レイアの悲しい思いを聞いたバレリアはうつむいたままであったが、ふと顔を上げ
「私に付いていく気はないか?」
「えっ?」
「レパントに言えば何とかしてくれるはずだ。あなたも帝国の被害者だからね。
 わたしのせいでもあるし・・・」
「で、でも・・・」
「大丈夫ですよ。みんないい人ばかりですよ。」
「うん、一緒に行こうよ。」
「レイア、なかまだワン」
他の3人が口々に、レイアを向かい入れる。
「ありがとう、バレリア」
レイアは、泣きながら答える。
「そうだ、これは返すよ」
バレリアは、2つのイヤリングをレイアの手に渡した。
レイアはそれをギュッと握りしめた・・・

「ちょっと気になるんですが、あの金庫はなかなか破れないとは思うのですがどうやっ
 て?」
トラン城への道中、キルキスが問う。ロックのことが気になるんだろう。
ロックは魔法は使わないので、彼のかけた鍵は魔法では開かないはずだが・・・
「彼女なら、比較的楽かもしれない、実はこのイヤリングは・・・・」
とバレリアが答えている最中に
「私が作ったのよ。これでもわたし手先が器用だから」
レイアが割り込んできた。
「彼女は昔、宝石細工の仕事を目指していたからね。」
バレリアが付け加える。
「でも、その水晶は私が作ったんじゃないわよ。魔法は全然ダメだから。」
レイアがバレリアが手に持っている水晶を見て言う。
「とするとこれを作ったのは・・・」
バレリアは既にわかっているような雰囲気で聞く。
レイアは黙って頷いただけであった。

「役に立たない人のようですね。せっかくあの水晶を与えたのに。」
フェリウスは、冷静を装っていたがあまり良い気分ではなかった。
「まぁ、良いじゃない。ちゃんと例のものは手に入ったんだから。」
サルファが言葉と同時にあるものを手渡した。
「これがそうですか。これがあれば、あれは完成しますね。クククク・・・」

不気味な笑いが、薄暗い城内に響きわたった。

▽第6章「本当の勇気」
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