新たなる野望者 第7章

「戦いに魅せられる者」


△第6章「本当の勇気」
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「とうりゃぁ!」
男が、剣を振りかざし突進する。
その男は既にそういうの傷を負っていた。まさに最後のあがきでる。
モリスは、その突進もあっさりかわし、回り込んだ格好から天牙棍を相手の首もとに叩
き込む。
ドサッ
相手はその場に崩れ、起きあがることはなかった。
「5分20秒、相手の気絶により勝者はモリス!」
ワァァァァ!
会場に歓声がわき起こる。
モリスは表情を変えず、担架に載せられようとしている相手に一礼をし会場を後にする
「ぼ、坊ちゃん怪我はないですか?」
グレミオが心配そうな顔で出迎える。
「大丈夫だよ、グレミオ」
モリスはやっと堅い表情を解き、微笑みながら言った。
「でも、わたしは心配でまともに試合なんか見れませんよ。」
事実、グレミオは試合中もずっと選手入口で祈っていただけであった。
一度は、認めたもののやっぱり心配になってしまったのである。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。」
1人の中年男性がこちらに向かってきた。
顔立ちは非常に優しいのだが、頭は坊主とまではいかないが、短く刈っていた。
しかも服装は武道をやっているものが身につけるものであった。
「ウェス師範!そう言われましても。
 わたしは坊ちゃんをお守りするのが生き甲斐なんですよ」
「グレミオ、あまり大声を出すな。心配するのはわかるが少しは落ちつきなさい。」
ウェスはグレミオに言い聞かせるが、それでグレミオが納得するんであれば、いままで
誰も苦労するはずがなかった。
やはりグレミオはまだ不満そうであった。
この心配性は一生直らないのであろうか・・・
続いてウェスは小声でモリスに
「まだまだ1回戦が終わったばかりだ。この試合は一方的だったが2回戦はそうは行か
 ないだろう。気合いを入れるんだぞ。」
「ハイ!」
モリスは、気合いが入った返事で答える。
「それとあれにも気をつけるんだぞ。
 それと、今後はおまえ達と話せなくなるだろう。」
とウェスが言うと2人から去っていった。

半月前

「モリス、ちょっと良いか?」
「はい!なんでしょう師範」
練習棍を打ち込む手を止めて、モリスは答える。
それを見守りながら、武器の手入れをするグレミオも注目する。
「実はな、おまえに出てもらいたい大会があるんだ。」
「大会?僕がですか?」
「坊ちゃんを大会にですか?」
「そうだ。ここで修行を初めて1ヶ月程度しかたっていないおまえにこれを頼むのはと
 ても申し訳ないと思う。しかしおまえがいちばん適任なんだ。」
「なにか訳ありですね。」
モリスは深刻そうな顔をするウェスを見て、これはなにかがあると感じたようだ。
グレミオが嫌な予感を感じたのも間違いはなかった。
「誰かに聞かれてもまずい。わたしの部屋に来てもらいたい。」
3人は奥の1室に入る。ここは入門時に入ったきりであった。
モリスとグレミオは、修行の旅の途中にカイの修行仲間であったウェスと出会いしばら
くの間、彼の元で修行することになった。
こういう修行であればグレミオは文句ひとつも言わなかった。
今回も普通の大会であればグレミオは歓迎であったが、この様子からしてそうは思えな
かった。
「おまえたちはたぶんその大会になんでモリスが出るのか不思議であろうと思う。」
ウェスは、部屋の奥にすわり込み話を始める。
モリスとグレミオが不思議がるのも当然であった。
この道場には、50人程度の門下生が修行をしていた。
ただの運動として入っている者が多いが、中にはモリス以上の者も多かった。
一度、手あわせをして接戦の末に負けてしまったのだ。
普通ならそういう者が出るはずである。
モリスが強かったとしても1ヶ月程度しか居ない下っ端より、先輩が出るのが当然とも
言えた。
「はい。」
二人は、正直に答えた。
「この大会の優勝賞品は、とてつもないものだ。」
「いったいなんですか?」
モリスが聞く。
「戦闘教本」
「なんか、そのままの名前ですね。」
グレミオが、初めて聞く名前だがそのネーミングに呆れそうになる。
「確かに、名前はそのままでつまらんが、この本はとてつもないものだ。
 この本は剣術から魔法までありとあらゆる戦いのための情報が書かれていると言われ
 ている。
 この本を悪用すれば、1国くらいなら簡単に征服できるというものだ。」
ウェスの表情はいつも硬い方であったが、今日はそれ以上であった。
「そんなものが何で賞品なんかになるんですか?」
モリスが誰でも気になる質問をぶつける。
「この都市には、アンデルンという人間が居ることは知っているな?」
「確かに聞いたことがあります。どうやら大変な資産家と聞きましたけど。」
「うむ、その通りだ。しかも彼の趣味が異種別格闘だ。
 武術、剣術、棒術、魔法何でもありという戦いが好きでな。
 この大会作ったのだ。そしてどこからか手に入れた戦闘教本を使って強者を育成して
 いるらしい。」
「とすると彼も道場を作っているんですね。でも、他の道場の者に優勝されたら?」
今度はグレミオが口を開けた。
「そうじゃ、道場としては成り立たないかもしれない。
 しかし彼らのことだから複製位しているだろう。
 しかしそのアンデルンは欲深い男だ。」
「資産家のよくあるパターンですね。」
グレミオがあきれながら言う。
ウェスはうなずいてから、
「アンデルンは100歳は生きているはずなのに、その容姿は20歳代なのだ。
 しかもそれなりの美形ともあってなかなかの人気がある様だ。
 だからプライドの問題もあって負けられないだろう。
 後は参加費もなかなかの金額だ。
 そしてその参加費の合計が賞金となり、それと戦闘教本も付くというからそれに釣ら
 れて毎年なかなかの強者が集まるのだ。」
モリスとグレミオはお互いに顔を向けてうなずいた。
「真の紋章」
真の紋章を宿した者は強大な力を手に入れるだけでなく、不老を手に入れることができ
るのである。
アンデルンが100年間生きているにも関わらず20歳代の容姿であるというのなら、
ほぼ間違いなく真の紋章を宿しているのだろう。
ウェスは続けて、
「アンデルンは確かにある程度の腕を持っているが、華麗な勝利にこだわっているらし
 く昔はあまり強くなかったらしいのだが、この大会では今まですべて優勝している」
「本当ですか?」
モリスが不思議そうに聞く
「そうだ、だがどう考えても不正らしいものがある。」
ウェスの表情はさらに深刻さを増す。
モリスもただ事ではないことを悟る。
グレミオはいやな予感が的中したと感じた。
ウェスはさらに続ける。
「アンデルンの対戦者は、大概が弟子なんだ。しかも強者が多い。
 万が一に外の者が勝ち上がって、次の対戦相手となっても試合までに謎の失踪をとげ
 たりするのだ。」
「それはどう考えても・・・」
グレミオが言う。
「間違いないだろう。しかし証拠がない。
 それに彼の主催する大会だけに文句を言っても無視されるだけだ・・・
 教本はどうでもいいが、武道をああやられると許せないからな。
 ましては、戦いの前に・・・」
「話はだいたいつかめましたが、私が参加する理由はなんでしょうか?」
モリスが問う。
すでに好奇心はいっぱいであった。
「おまえは、まだここに来て間もないからアンデルン達には知られていないだろう。
 そこで、この道場の門下生ではなく、旅の途中の者として参加し探ってもらいたいん
 だ。たのむ!」
ウェスが頭を下げる。
モリスが返事をする前に
「ダメですよ、坊ちゃんにそんな危険な役をやらせる訳にはいきませんよ!!
 坊ちゃん、この町を出ましょう。修行ならもっと安全なところがありますよ。」
グレミオがモリスの意志に関係なく決めつける。
「でも、グレミオ。アンデルンみたいな人間を許せるかい?」
モリスが説得に入る。
「それは・・・
 でも、坊ちゃんがそんな危険を冒してまでやることではないですよ。
 それに方法はいろいろとあるはずです。」
グレミオは一歩も引かない状況であった。そのときウェスが、
「方法はいろいろ考えたが、相手も大きな組織だ。
 こっちがなにも証拠がなく動くのは難しいのだ。
 下手に動けばこの道場はあいつに潰されるだろう。もちろん強制はできない。
 モリス、おまえの意志はどうなんだ?」
モリスはグレミオの表情をチラッとうかがってみた。
やっぱり、良い表情はしていなかった。
モリスに「断りましょう。」と訴える表情にしか見えなかった。
しかし、モリスの返事は決まっていた。
「わかりました。やります。」
「ぼ、坊ちゃん!」
「うむ、よく決心してくれた。」
「よくないですよ、坊ちゃんをこんな危険な目に遭わせるなんて・・・」
「大丈夫だよグレミオ。」
「坊ちゃん、今回は今までと違うんですよ。1人で戦わないといけないんですよ。」
「確かにグレミオの言うとおりだ。いままでは2人で戦っていただろうが、今度は誰も
 助けてくれないぞ。
 もちろん、試合以外ではグレミオが助けてくれるだろうけどな」
ウェスがグレミオの意見に付け足した。
「ウェスさんはどうなさるんですか?」
「おおっぴらにおまえ達をバックアップすれば怪しまれるだろうから、ほとんど助けら
 れないだろう。
 それと今日から宿を紹介するからそっちに泊まれ。
 もちろん費用はこっちで出す。」
「わかりました。で、選手として登録する方法は?」
今度はモリスが尋ねる。
「それは宿屋の主人に聞け。
 あくまで戦いの噂を嗅ぎつけてきたという雰囲気でな。」
「それなら、怪しまれにくいですね。って、私はまだ認めてないですよ。」
グレミオは思わず反応してしまったが、すぐに取り消した。
モリスが悪者を倒すというのをみるのはグレミオは好きである。
しかし、いつもそれ以上に心配してしまうのであった。
「では、さっそく準備します。」
モリスが立ち上がろうとする。
「坊ちゃん、本当に良いんですか?」
モリスはグレミオの心配な顔を見てから、こう言った
「大丈夫、みんなが守ってくれるよ。」
「はい」
グレミオは、解放軍のメンバーを思い浮かべながら返事をした。

「モリスさんとグレミオさんですね。わかりました。」
宿屋の主人が部屋の手配をとる。
どこにでもいる普通のおじさんであった。
「ところで、ちょっと小耳に挟んだんだけど、この街で近々武道大会があるとか?」
モリスは、少し大きめの声で聞く。
「ほぅ、あの大会のことを聞いたんですね。
 参加するならこの通りの角に事務所があるからそこで申し込めばよい。
 で、2人とも参加かい?」
今度はグレミオが
「いえ、坊ちゃんだけです。私は遠慮しようかと」
「せっかくだから出たらどうだい?おまえさんも結構強そうじゃないか」」
宿屋の主人が言う。
「いえ、私はそんなに自信がないですから。」
グレミオは頭を掻きながら言う。
本当は自分も参加して、モリスの手助けをと考えたのだが、やはり参加費が高いのであ
きらめていたのだ。
モリスの分は当然に貰っていた。
「ところでグレミオ、アンデルンはどういう真の紋章を宿しているんだろう。」
モリスは自分の手をみながら言った。
その手にはグローブがはめられていた。
『ソウルイーター』
真の紋章のひとつではあるが、呪われた紋章である。
モリスは幼なじみであったテッドからこの紋章を託されたのであった。
「私たちが知っているものではないことは確かですね。」
「だとすると見ないことにはだね。」
「でも坊ちゃん、ウェス師範の話に魔法のことは出ませんでしたよね。
 とすると彼は滅多に使っていないのではないでしょうか?」
「そうかもしれない。
 とりあえず、戦いを見てから考えるしかないと思うよ」
「そうですね。坊ちゃん無理だけはしないでくださいね。」
「わかってるよ、グレミオ」

そういった理由で、モリスはアンデルンの陰謀の証拠を探すことになった。
モリスとグレミオは、観客席に上がった。
これからアンデルンの1回戦である。
観客には、いつのまにか女性の姿が目立っていた。
「これより、1回戦第32試合アンデルン対イーギルを行います。」
ワァァァァ!
会場内に歓声が沸き上がる。
さらに、両者が入場と同時に、
キャーーー
会場に目立つ黄色い歓声があがる。
「やけに人気がありますね。」
グレミオがそばで声を上げている女性達を横目に言う。
「そうだね。でも、聞いたとおり結構かっこいいかもよ。」
モリスはアンデルンの方を向きいう。
当然モリスは初めて見るのだが、左から出てきた男は、力で押すタイプのごついタイプ
であった。
お世辞にも彼が非常に人気が出るとは思えなかった。
一方、右から出てきた男は華麗な衣装に身を包み、長め髪もきれいに整えられている。
また顔立ちも、女性に間違えられそうなほど繊細できれいであった。
まあ、人気が出ても嘘ではないと言えるだろう。
一見すると魔法使い風なのだが、よく見ると腰にはやけに長い剣の鞘があった。
「まさかあの剣で戦うのかな。いままで見たことがない大きさだし・・・」
モリスは、そう考えながら試合開始を待つ。
レフリーが試合の注意点を話している。
しかしどちらも聞いている気配はなかった。
「互いに礼!」
イーギルは深々と礼をする。
それに対してアンデルンは非常に軽いものであった。
「なんですか、あのアンデルンの態度は。」
グレミオは、気に入らない彼の態度を声に出して言ってしまった。
「グ、グレミオ・・・」
モリスは、とある方向を見ながら気まずい表情で言う。
「え?坊ちゃんどうしたんですか?」
グレミオもその方向を向いてみる。
その瞬間グレミオの表情がこわばった。
アンデルンファンの女達が、グレミオに対して冷ややかな目線を流していた。
「口に出したのはまずかったですね・・・・」
グレミオは不覚を悟ったが、時すでに遅し。
どうやってこの場を切り抜けようと考えたとき、
「はじめ!」
ワァァァァァァーーー
レフリーのかけ声と同時に、観衆は2人の選手に注目する。
グレミオのつついていた視線もすべて試合の方へ移った。
世界のどこかには、ボクシングという殴り合いのみの格闘技があるとグレミオは聞いた
ことがある、それは3分ごとに、休憩があるらしい。
追いつめられても3分を過ぎれば一旦であるが救われるのである。
これを「ゴングに救われる」と言われたりするが、いまの自分はそれに近いと感じてい
た。
「うりゃゃーーー!」
イーギルは、腰に携えていたロングソードを引き抜きながら突進する。
「何かやけに突っ込もうとしていますね。」
グレミオがぽつりという。
アンデルンは未だに微動だにしない。
「力で押す気なのかな」
モリスが試合を見ながら返す。
とうとう間合いが縮まった。
ここで、アンデルンが動いた。
しかし足は全く動かず、手が長剣を引き出し・・・
キン!
一本の剣が空高く舞う。
剣の行方を気にしてから、2人を見ると既に決着が付いていた。
アンデルンの長剣がイーギルの首もとにつけられていた。
一歩でも動けば、致命傷となりうる傷を受けるだろう。
「ま、まいった」
イーギルはしかたなく敗北を認めた。
「あれが、アンデルンの実力ですか?」
グレミオはあまりの早業に、驚かずにはいられなかった。
「でも、師範の言っていたことも気になるなぁ」
モリスはまだ信じてはいなかった。
ウェスの話が事実であれば、十分演技である可能性は高い。
しかし1回戦だけあって初めて見る人間の戦いを見抜くのはなかなか難しい。
モリスは2回戦の戦いを見てからでも十分と判断した。

モリスの2回戦

相手は、魔法使いのエズであった。
「切り裂き!」
低い声で呪文を唱える。
エズの放つ刃が、モリスをおそう。
ここでモリスはあることを実践で使うことにした。
天牙棍を構えて、刃を迎え撃つ。
観衆がどよめく・・・
エズもモリスの意外な行動に少々驚いたが、逆にこれで「勝負あったな」と感じつつあ
った。
普通に考えれば、武器で魔法を弾けるはずがない。
魔法剣で吸収するなら話は別であるが・・・
そう、魔法剣は魔法に対して相当無敵になる。
刃がモリスを捕らえようとしていた。
しかし・・・
刃は方向を変え、空へ向かっていった。
モリスがグレミオの放つ刃をはじく練習をしていたのだ。
モリス自身ここまでうまく行くとは思っていなかった。
エズは、自分の魔法には自信があった。決して自信過剰ではなかった。
彼もそれなりの能力を持っていた。
彼の放った刃は紋章の力で生み出したものではなかったのである。
モリスは、相手が次の魔法を放つ前に一気に間合いを縮めた。
エズも寸時にかわそうとしたが、モリスの動きは彼が考えていた以上に速かった。
その後、彼の意識は真っ暗になった・・・

アンデルンの2回戦

モリスと、グレミオは1回戦と同じ場所に座って試合開始を待っていた。
しかし、対戦する2人はなかなか登場しなかった。
しばらくの、無駄な時間のあと・・・
「お知らせいたします。
 今度のゼルス対アンデルンの試合ですが、ゼルス選手が時間になりましても集合場所
 に現れませんでしたので、アンデルン選手の不戦勝といたします。」
試合場に放送が鳴り響く。
スタジアムにどよめきが起こる・・・
モリスとグレミオは考え込みながら席を立った。

「グレミオ、もしかして今日のアンデルンの不戦勝は・・・」
ここは2人が泊まる宿の1階の食堂であった。
モリスは肉団子をつつきながら深刻な表情で話す。
「どうなんですかね。でも可能性はありますね。」
グレミオはシチューの味に若干不満であったのか、不機嫌で言う。
「ゼルスという選手はなかなかの腕を持っていると聞いたし、1回戦を見たときもなか
 なか良い戦いをしていたよ。」
モリスはそう言うと、つついていた肉団子を口に放り込んだ。
「で、ゼルスはどうなったかわかります?」
「大会参加者に聞いた話だと行方不明らしいよ。
 そこでは恐れをなして帰ったと言われているけどね。
 当然、僕はそう思えないけど。」
「とすると、やはり・・・・」
グレミオは最悪の事態を考えていた。
「可能性は高いと思うよ。だけど探し出すのは・・・」
モリスも口調はいつも通りであったが、表情は怒りを隠せないようだった。
「アンデルンの次の対戦者は、ウイリッシュですね。
 魔法剣の使い手らしいですよ。」
グレミオが大会のパンフレットで確認をして言う。
「とすると、なかなかの強敵になるんじゃないの?」
「魔法剣を使えるのは、今度の参加者で彼1人ですからね。」
「ということは、可能性があるということだね・・・」
「ええ」
2人とも表情は一気に硬くなる。
さっきから料理はあまり手を付けられていない。
「彼を尾行しててみるしかないのかな。」
「ちょっとまずいですよ尾行は・・・」
「どうして?グレミオ」
「私たちが怪しまれますよ。
 下手をすればいままでの事件をすべて擦り付けられる可能性もありますよ。」
自分たちがそんなことで捕まっては、元も子もない。
「じゃあ、ほかの方法を考えよう。」
モリスは素直に言った。
「本人に直接伝えるしかないのでは?」
「やはり、それしかないのかな。」
2人は、明日ウイリッシュに会いに行くことにした。

「何でわたしが狙われるんだ?
 そんなふざけた冗談を言いに来たんなら帰ってくれよ」
ウイリッシュはぶ然とした表情で言う。
いきなり尋ねてきて、しかも『あなたは狙われている』と言われれば、平然している人
などほとんどいない。
この魔法剣士は見た目は普通の戦士という顔であった。
なかなか魔法剣を使いこなすと見るのは難しい。
「じょ、冗談ではないですよ。」
グレミオもあまりの態度に、少々気に入らなかった。
「あなたの今度の対戦者である、アンデルンが2回戦が不戦勝だったということは知っ
 てますよね?」
モリスは、やけに冷静に話す。
信じて貰うには熱くならない方が良いと聞いたことがあった。
「ああ、奴はラッキーだったな。ただそれだけだろ?
 だが、その運もここまでだな。」
ウイリッシュは自信満々であった。
この自信が命取りにならなければ良いなとモリスは思った・・・
「そうとは限らないかもしれないんですよ。」
「何だと坊主!とするとなにかい、奴の対戦相手が試合前に何者かに殺されるというこ
 となのかい?」
「可能性があります。」
「ふっ、馬鹿馬鹿しい。
 そんなことをしなくても奴ならそれなりに戦えるんじゃないのか?
 まぁ、このわたしが相手だったら、そうしたくなるかもしれないがな。」
「だから、もしもを考えて試合までは外出を控えた方が良いと思いますが?」
「まぁ、もし来たとしてもわたしを殺すなんてできないけどな。
 どちらにしろわたしは出歩くのが性に合わないからな。
 わるいけど、もうそのくらいにしてくれないか?」
「わかりました、気を付けてくださいね。」
ウイリッシュは返事をしなかった。
モリスは、諦めて部屋をた。
半分彼がどうなっても知ったことではないと思うようになってきたが、それを抑えて近
くで監視をすることにした。
「ウイリッシュという男は、ずいぶんと自信過剰でしたね。
 なんか監視するのが馬鹿馬鹿しくなりません?」
グレミオはほとんどやる気がなくなっていた。
「ウイリッシュは僕も気に入らないけど、やはり犯人は捕まえたいからね。」
「でも、まだ狙われていると決まったわけではないですよ。」
「ちょっとあなた達なにしているの?」
2人の後ろから女性の声がした。2人が振り返ると30代後半のおばさんがいた。
どうやら、この宿の係りらしい。
食事を用意した大きなお盆を持っていた。
「いや、ちょっと人を待っているんです。」
グレミオが何とかごまかす。
モリスはおばさんを無視してウイリッシュの部屋を見ていた。
「待つなら下の階にしてくれないかね。ここは客室だから困るんだよね。」
「すみません、あと少しで来るはずですから。」
「そうかい。今回はしょうがないけど、次からはやめてちょうだいよ。」
そう言うとおばさんは、盆を持って去っていった。
モリス達はしばらくそのおばさんの行動を見ていた。
すると、ウイリッシュの前の部屋で止まった。
ドンドン!
やけに大きくノックをしたあと、
「ウイリッシュさん、食事を持ってきましたよ!」
おばさんは、大声で呼びかける
「はい、いま行くよ。」
中から、また大きな声がする。
モリスとグレミオは、姿を隠す。
見つかれば、あのおばさんに「追い払ってくれ」と言われるのは目に見えていた。
ガチャ
「ああ、すまないね」
「次からの食事は下でお願いしますよ。」
「ちっ、わかったよ。」
バタン!コツコツ・・・
おばさんが帰る途中に、2人をちょっと睨みながら1階に降りていった。
グレミオは、おばさんが完全にいなくなったのを確認してから
「ずいぶん機嫌が悪いようですね。あのおばさん。」
「食事を運ばせるなんて、余分な仕事だったからじゃないのかなぁ。」
結局2人は、外から監視することにした。
3回戦は明後日であるためそれまでの監視である。
2人は宿の入口が見える位置で監視しやすい場所を探し、そこで監視をした。
裏口からという可能性もあるが、裏口から何者かが侵入したり、ウイリッシュがそこか
ら外出するのは相当怪しまれるのを覚悟しなければならない。
しかし、怪しい人物が宿に入っていったり、ウイリッシュが外出した事もなく、3回戦
の日を迎えた。
モリスとグレミオは唖然とした表情でグラウンドを見るしかできなかった・・・
そこには、アンデルン1人だけが立っていた。
「な、なんで・・・」
モリスはほとんど声が出なくなっていた。
「坊ちゃんはこの後に試合ですから、わたしが宿に行ってみましょう。」
「う、うん・・・」
グレミオは、急いでウイリッシュの泊まる宿へ向かった。
試合があるからだろうか、ロビーには誰もいなかった。
「不用心ですね。」
と、つぶやきながらグレミオはウイリッシュの部屋の前に進んだ。
中は人の気配はしない。グレミオはドアを開ける。鍵はかかっていなかった。
グレミオは中を見ると、表情が一変した。
「ウイリッシュさん!!」
ウイリッシュは、椅子に座ったままテーブルの上で息絶えていた。
テーブルには食事を終えた食器だけが置かれていた。
「もしかして、この食事に?」
グレミオが彼がどうして死んでいるのかを考えていると、入口に人の気配を感じた。
「あんた、そこでなにをしているの? え・・・ひ、人殺し?」
あのときのおばさんであった。
「ちょっと、わ、わたしが来たときは死んでいたんですよ!」
「ひ、人殺しよ!助けて!」
おばさんは叫びながら、逃げるように走り出した。
「ちょ、ちょっとまってくださいよ!!」
グレミオもあとを追う。
廊下に出ると、既に下の階に降りてしまったようだ。
ほとぼりが冷めるまで、どこかに逃げるしかないのでしょうか・・・
グレミオはそう考えながら下の階へ降りていった。
とにかくこの宿から脱出しないと行けない。
しかし、ロビーにたどり着いたグレミオはその望みも絶たれたのである。
既におばさんの叫び声でまわりの人間が駆けつけていたのである。
この辺の人々は、モリスの試合はほとんど興味を示さなかったようである。
グレミオは、真実のみに期待せざる終えなくなった・・・

モリスは、部屋で1人落ち込んでいた。
試合には勝ったもののグレミオが殺人犯とされてしまうとは思いも寄らなかったのであ
る。
まず間違いなく、あの食事に毒らしきものが入っていたんだろう。
しかし、それを調べることはいまの警備隊にはできないであろう。
あとは状況証拠などを頼りにするしかない。そ
うなるとグレミオには相当不利になるのは間違いない。
自分が決勝に進んで、アンデルンと戦うことになれば、相手は殺しに来るのだろうか?
しかし、もう一度身近から考えてみた。
次ぎの準決勝の相手であるヘルゼンは、アンデルンと違う流派を名乗っていたがウェス
から事前にもらっていた情報だとアンデルンの一派らしい。
ヘルゼンが勝てば、決勝でアンデルンは有終の美を飾ることは間違いないであろう。
とすると・・・
モリスは、警戒してここに居着こうかとも考えた。
だが、このまま放っておけばグレミオの疑いは晴れないであろう。
ここは、おびき出すのも良いかも・・・でも危険だろうか?
でも、やってみるしかない!

「死んだのがばれたらしいな。」
1人の男が、葡萄酒の入ったグラスを片手に硬い表情で言う。
「はっ、申し訳ございません。」
部下だろうか、そういうと深々と頭を下げる。
他に人は居なかった。部屋の中はだいぶ暗い。。
だいたいの人間はここだけ暗いと落ちつけないであろう。
男の顔は暗くてハッキリしない。
続けて部下が
「しかし運良くある男が居合わせまして、その男が犯人とされたようでございます。」
「その男とは?」
男はグラスの葡萄酒を軽く口を付けてから言った。
「はい、グレミオという男で今回の参加者の1人であるモリスの連れでございます。」
「確か、そいつはまだ勝ち残っていたな?」
「今度は、ヘルゼンが相手でございます。」
「そうか。一応、万が一を考えてトギを送っておけ。
 あと、フェッツにはしばらくのあいだ、そのまま続けろと伝えておけ。」
「はっ、かしこまりました。」
部下は、また深々と頭を下げたのち、部屋を後にする。

モリスは、翌朝1人で出かけた。
試合は明日であったため、今日は修行ということで郊外の森に出かける事にした。
しかし修行とは建て前で、本当はおびき寄せであるのだが。
1人では相当厳しいかもしれない。
もしかするとこれに頼る必要があるかも・・・
モリスは右手を見ながらそう考えた。
郊外の森に着くと、まずはイメージトレーニングを行った。
ウェスに教わった練習で、実際に相手と戦うところを想像しながら技の出すタイミング
などを考える練習である。
ある程度の実戦がないと想像しにくいのではあるが、モリスにはそれなりの実戦はあっ
た。
また、精神的な修行にもなるであろう。
しかし、その途中でモリスは目を見開いた。
囲まれている・・・
予想通りか、既に何人かの敵がモリスを取り囲んでいた。
ここは相手の出方を待つしかない。
「モリス。集団に囲まれたときはな、相手の動きを感じとるしかない。相手は集団だ、
 1人ではない。当然コンビネーションがちゃんと取れているとは限らない。そこを狙
 うんだ。」
ウェスに学んだ、戦いの極意のひとつであった。
相手達は、じりじりと近づく感じであった。
しかし、森の中だけあって完全に気配をなくすことは不可能である。
動く度にわずかではあるが、草のざわめきが聞こえる。
モリスは、その場に立ち上がった。
その瞬間!
一斉に、数人の男達が飛び込んできた。
しかし、完全にバラバラであった。
モリスは、飛び出すのに遅れた者が居る方向にダッシュし天牙棍で一撃を放つ。
そして、そのままの方向にダッシュする。
「くそっ、追いかけろ! 絶対に追いつくんだ!」
奇襲に失敗したトギは早くもあせりが見えていた。
その部下もモリスが走っていった方向を追いかける。
モリスは、全く振り向かずに走る。
このまま行けばあと1里程度で草原に出るはずである。
そこでなら使いやすいはず。
モリスは右手を見ながら考えた。
本来なら使いたくはなかったが、敵は10人近くはいた。
それだけの人数を相手にするのは、あまりにも厳しかった。
やがて、緑一色の世界から抜け出した。
遠くに町が見える草原である。
モリスは、出てきた森から少し離れてから森を向き待ちかまえる。
次々と武器を持つ男達が飛び出してくる。
「野郎ども、さっさと片づけるんだ!」
森の中から、ある男の大声が聞こえた。
オス!
男達が声を上げるのと同時に、一斉ににじり寄ってくる。
モリスは静かに右手を上げる。
・・・呪われし紋章よ、自らの力を解放し、影となりて奴らの魂に喰らいつくが良い!
何度言っても、嫌な呪文だと、モリスは思っていた。
普段使いたくない理由のひとつである。
モリスが呪文を唱え出すと、聞き慣れない呪文に何人かがひるむ。
「ひるむな!さっさと捕らえるんだ!」
再び、森から大声がする。そして呪文が完成した。
「黒い影!」
モリスの右手から、紋章が浮かび上がる。
それはまさに死神であった。
紋章は黒い影となり、男達の中心へ飛び込むと巨大な影が半球状に男達を包んでいく。
あまりに広範囲の魔法であり避けることも不可能であった。
その影は容赦なく、気力と体力を喰い尽くしていった。男達は一気に叫び声をあげるた
めの体力まで失っていった。そして、1人残らずその場に倒れた。
「なんだあれは・・・初めて見るぞ!」
森の中でその様子を唖然と見ている男がいた。
トギである。
集めたメンバーは、アンデルンの一門の中でも精鋭揃いである。
それを見たこともない魔法で一瞬で全滅である。
こんな事はいままでにはなかった。
モリスは、気を緩めずにその場で森の様子を探っている。
「このままでは、自分の身も危ない。しかたがないか・・・」
トギはあっさりと観念することにした。
こういうときは自分の身が一番大事であるというのだろう。
あまり味方にはしたくないタイプである。
トギは両手を上げたまま、森を出た。
「あなたが首謀者なんですね?」
モリスはトギに向かって言い放つ。
「いや、わたしは雇われているだけです。」
モリスの魔法を恐れているのか、トギの口調はやけに丁寧である。
「わたしはトギと言います。ある男の野望のために働いていました。」
「いました?」
モリスは男の語尾が過去形であることに疑問を持つ。
「そうです。あなたには勝てないと思いましてね。もうやめました。」
「あなたの雇い主は、良い部下を持ったようですね。」
モリスはトギの行動に呆れていた。
それを聞いたトギはただ笑っているだけであった。
「あなたには警備隊に色々話して欲しいことがありますが良いですね?」
モリスは間違いなくアンデルンが雇い主と判断していた。
「良いですよ。そのかわり命だけは保証してくれますね?」
「それは、あなた次第です。いまはひとつだけ聞きます。
 大会の参加者が行方不明になったり、殺されていたのはすべてあなたの主人であるア
 ンデルンですね?」
トギは黙ってうなずいた。

準決勝

ワァァァァ!
大歓声の中、モリスとヘルゼンが対面する。
「ほう、良くここに来られたものだな。トギの奴は失敗したのか。最初からこのわたし
 に任せてもらえれば良いものを・・・」
「彼はだいたいは話しましたよ。この大会も今回まででしょう。
 いや、次からが本当の第1回ですね。」
「なにを言うか!まだ終わっていない。わたしが貴様を倒す!」
ヘルゼンはそう言うと武器である、ロングソードを構える。
はったりは効かなかった。
トギからはモリス自身はまだほとんど聞いていなかった。
モリスも黙って、天牙棍を構える。
はじめ!
レフリーのかけ声と共に、両者とも間合いを詰め互いの武器を交える。
しばしの競り合いのあと、一度両者とも退く。
しかし、すぐまた一気に詰め攻撃しあう。この繰り返しが続いた。
「トギの奴め・・・」
いつになく口調は、不機嫌である。
「申し訳ありません。」
部下はいつもどおり深々と頭を下げる。
「謝って済む問題か!
 このままではいままでの計画がすべて無駄なんだぞ!」
「トギはあとでかならず・・・」
「あの男は大したことは知らぬ、あとで良いだろう。だがあの男はどうする?
 ヘルゼンの腕もまだまだ一流ではない。」
「しかし・・・」
「おまえはわたしにみすぼらしい戦いをしろというのか!」
「い、いえ。滅相もございません。」
「わたしが、本気を出せばあの程度の男ほど一瞬で地獄へ落とせるが、ここでその姿を
 見せるのはわたしの思想に合わない。そうだな?」
「ごもっともでございます。まずはヘルゼンに期待してください。」
「よし、良いだろう。」
試合は互角に進んでいた。
モリスは、左右に振りながら、徐々に詰めていく。
ヘルゼンもその動きに合わせて、待ちかまえる。
近づいたところでモリスは一気に回り込み右側から振り下ろす。
しかし、ヘルゼンもとっさに反応して剣でそれを受ける。
モリスは再び間を広げ体勢を整える。
今度はヘルゼンが突進する。
間合いが縮む途中で急にヘルゼンは剣をモリスに向けたまま後ろへ引く、その直後一気
に前へ突きだす。今度は切るのではなく突きで攻撃をしてきた。
モリスは、間一髪で右へ飛んだ。
回り受け身で再び立ち上がる。
「う・・・」
避けた際に左腕をかすってしまったようだ。しかし、深くはない。
お互いに有効な攻撃がないまま、時間だけが過ぎる。
疲労度は互いにピークに達しようとしていた。
「どうしたら相手に一撃を与えられるんだろう」
モリスは、賢明に考えた・・・
「まだまだだぞモリス!そんなことでは相手をいつまでたっても捕らえられないぞ!」
「はい、カイ師匠」
モリスは、突進し振りかぶる。
「まだまだ!」
「うっ」
モリスの棒はあっさりかわされ、カイの棒がモリスの足に命中する。
「モリス、おまえは相手の武器の動きで判断しているな。確かにそれは重要なこと。
 しかし、相手の動きを良く知るには下半身の動きも重要だ。
 さらに、集中して相手の気を感じ取れれば言うことなしなんだがな。
 それはわたしにもできないからな。」
カイの厳しかった表情がにこやかに変わった。
「はい!」
モリスも笑顔を見せていた。

「相手の足の動きを・・・」
モリスは目線を下に持っていく。
それを見たヘルゼンは、
「試合中によそ見とは・・・」
猛然と動き回る。そして一気にモリスへ近づいていった。
ガッ!
「クッ なぜだ・・・」
ヘルゼンの右足の足首に激痛が走った。
モリスは足の動きから、来る方向を感じ取り動きを止めるために足を狙った。
カイとの猛特訓がなければそう簡単に感じ取れなかったであろう。
モリスは再び、攻撃をする。
ヘルゼンはとっさに避けようとするが足に激痛が走り思うように動けない。
先ほどより動きが悪いヘルゼンに対してモリスは容易に次の一撃を放つ。
ドサッ!
ヘルゼンは両膝をつく格好となった。
モリスは、その前で天牙棍を構える。
「さすがだな。わたしの負けだ。」
勝負あり! 勝者モリス!
ワァァァァァァ!
場内に歓声が響きわたる。
「君もそれだけの腕がありながらなぜ・・・」
モリスは、ヘルゼンの腕をつかみ立ち上がるのを助けるながら言う。
「あの人の腕は確かに一流だった・・・」
それだけを言い残し、ヘルゼンはは足を引きずりながら去っていった。
「アンデルンはいったい何者なのだろうか・・・」
モリスはそれだけが疑問であった。
ガシャン!
「ヘルゼンの愚か者めが!!」
男は、手に持っていたグラスを床に叩き割った。
「申し訳ございません。」
部下は脅えながら頭を下げる。
「で、どうするんだ。
 わたしに愚かな戦いをさせる気なのか?」
グラスを割ったせいか、いくぶん口調は落ち着いていた。
「とんでもございません。わたしに考えがあります。」
「不戦勝は認めないぞ。」
「そんなことはございません。」
「そうか、なら言ってみろ。」
「では・・・・・」

「えっ、まだ釈放はされていないんですか?じゃあ、面会を」
「いまは面会はできない。」
「そこを何とかなりませんか?」
「ダメだ。いまは取調中だ。それに彼にいらぬ知恵を与えられるわけにも行かない。」
「そんなことはしません。」
「ダメなものはダメだ。帰りなさい。」
モリスは、グレミオとの面会を諦め警備所を出る。
そこには1人の男が立っていた。
「モリス、ここまで良くやったな。」
「あっ、ありがとうございます、ウェス師範。ところで彼は話しましたか?」
「あの男も多くは知らないようだ。
 おまえを倒すようにアンデルンから言われた以外はほとんど知らないようだ。」
「とすると、ゼルスとウイリッシュの件はまだハッキリしてないんですね・・・。」
モリスは残念そうに言う。
てっきりグレミオが解放されると思っていたのだが。
「そう残念がるな。アンデルンが絡んでいるのは、ほぼ確実だ。
 あとは我々に任せて、明日の決勝に備えて休んだ方が良いぞ。」
「わかりました。」
「明日はがんばれよ。」
「はい!」
モリスは、部屋で一人考えていた。
「あの人の腕は確かに一流だった・・・・」
ヘルゼンのこの一言が気になっていた。
あの人とは間違いなくアンデルンの事だろう。
アンデルンに昔なにが起こったのか?
そして彼が持っているはずの真の紋章とは・・・
それがひとつの動機になるのではないかと思った。

決勝戦

無言のまま2人は、向かい合う。
アンデルンの表情は余裕であった。
それが、モリスには気に入らなかった。
しかしアンデルンの実力は全くわからない。
「どう戦えばいいのか・・・」
場内は物々しい雰囲気を放っていた。
しかしそれとは裏腹に観客席はアンデルンへの声援がこだましていた。
はじめ!
ワァァァァ!
場内は歓声に包まれる。
しかし、モリスにはその歓声は聞こえなかった。
試合に集中していたのである。そんな中、アンデルンの声だけが耳に入った。
「勝負は一瞬で付けてやる。」
「なにぃ!」
そう言うとアンデルンは、右手を高々と上げた。
「なにをするつもりなんだ・・・?」
モリスは、考えたとたん、右足に激痛が走る。
「うっ!」
何かが刺さったような痛みだ。
良く見るとやや大きめの針がモリスの足を捕らえている。
しかし、アンデルンの方向から飛んできたとは思えない。
右を見ると、隠れているが人間の動いている姿がかすかに見えた。
まさか・・・
左側を見ても、モリスを狙う視線を感じた・・・
「汚いぞ!」
モリスはアンデルンを睨み付ける。
「わたしが放ったものだ。それとも証拠があるのかい?」
アンデルンは平然と答える。
「何とか動き回るしかないのか・・・」
モリスは、動き回って攻撃を避けようと考えた。
しかし、右足が早くもしびれてきた。
どうやら毒らしき物も塗られていたらしい。
アンデルンは、隙を見せずに立ったままであった。
「それなりの能力があるはずなのになぜ・・・」
モリスの疑問が頭の中を渦巻いていた。
アンデルンは再び、右手を高々と上げる。
モリスは、何とか動き回って避けようとする。
「ううっ・・・」
今度は左足に命中した。どうやら魔法で飛ばしているようである。
これでは避けるのは容易ではない。
モリスは、足に力が入らなくなりそのまま倒れ込む。何とか起きあがることはできたが
もう立てない!
「もう、終わりか。ここまで来たのは誉めてやるがわたしの敵ではなかったようだ。」
モリスはあまりの屈辱に言葉が出なかった。
アンデルンの手が再び上がった!
「これまでか・・・・・・・・あれ?」
「なにっ!」
アンデルンも不思議そうに、小さい動作で左右を見る。
モリスも右を見て、表情が明るくなった。
「ウェス師範!」
先ほど、誰かが隠れていたところからウェスが顔を出し大きくうなずく。
今度は反対側を見る。
「グ、グレミオ!」
グレミオが同じように顔を出し右手でガッツポーズを取っている。
再びモリスの表情は険しくなった。
目はアンデルンの方を向いている。
「あなただけは許さない!」
「なにをする気だ!もうなにもできないだろ。観念するんだな。」
アンデルンは腰にかけていた長剣を抜きにかかる。

・・・呪われた紋章よ。
闇よりも暗き影を持つ紋章よ。
我は呪われし契約をし、汝の呪われし力を育んできた。
いまこそ、すべての力を解放し、我に対するものに容赦なき裁きを与えんことを・・・

呪文を唱え始めると、空は闇に包まれていった。
観衆もこの状況には、唖然としていた。中には巻き込まれるのかと逃げ惑う人もいた。
アンデルンは全く気にせずゆっくりとモリスに向かう。
「裁き!」
モリスは右手を上げた!
空から黒い影がいくつから舞い降りてきた。ハッキリと姿は持っていないが、死神なの
か、闇のの化身なのか、それとも天使なのか・・・
その数体の影は、ゆっくりとアンデルンの回りを囲んでいく。
「な、何だこいつらは!か、体が動かん!」
モリスはさらに右手を突き上げる。
「うっ、うわぁぁぁ!」
空の闇から無数の光線がアンデルンに落下していった。
この状況を見ていた者はなにが起こっているのかわからなかった。
呪われし『ソウルイーター』その名を知る者はごくわずかである。
アンデルンはそのまま二度と起きあがることはなかった。
モリスは、意識がもうろうとした中で何とか座っていた。
ワァァァァァ!
空が元通りの青空に戻ると、大きな歓声が場内を包む。
しかし、その歓声の中から違う叫び声が聞こえる。
「アンデルン様の恨み、覚悟せよ!」
アンデルンの門下生が、一斉に会場に現れモリスに突進しようとしている。
モリスは離脱しようとしたが、完全に足は動かなかった。
しかし後ろから、
「そうはさせるか!」
また違う集団が突進する。
その中にはウェスやその門下生、グレミオも混ざっていた。
アンデルンに対抗する道場のメンバーであろう。
「み、みんな・・・・・・・・・・・・・」

ぼっ
ぼっち・・・
坊ちゃん・・・
グ、グレミオかい?
坊ちゃん!
ど、どこだいグレミオ?

「グレミオ!」
「ぼ、坊ちゃん大丈夫ですか?」
目が覚めると、まずグレミオの顔が視界に入った。
「うっ、ここは?」
「よ、よかった!3日間も起きなくてずっと心配だったんですよ。」
グレミオの目には涙が浮かんでいた。
「あ、ありがとう、グレミオ」
「安心しろここは、わたしの道場だ。」
「ウェス師範!うっ・・・」
モリスの頭に激痛が走る。
「まだ無理をするな。でも、良くやってくれた。礼を言うぞ。」
「ありがとうございます。でもあの場面、どうして助けて・・・」
ウェスはなにも言わずに、右を向いた。モリスもその方向を向く。
「へ、ヘルゼン!」
ヘルゼンはなにも言わずに角に立っていた。
「彼が、知らせてくれたんだ。あとアンデルンのしたことをすべて話してくれてね。
 それでグレミオは釈放されたんだ。
 どうやらアンデルンはあの宿にフェッツという男を料理人として送り込んだらしい。
 もともといた人間が怪我をしたから代わりに寄こすと言ってね。
 当然その怪我は・・・」
「そうだったんですか。」
ヘルゼンはゆっくりとモリスに近づいて、
「君なら、アンデルンを助けられると思ったんだ。
 だから君のことを調べてウェスさんに話しに言ったんだ。
 あの人は不幸な人だ。許せとは言わないが話だけは聞いてくれないか?」
「うん。」
モリスは、ゆっくりとうなずく。
「アンデルンはその昔、アイリュウという名を名乗っていた。」
「アイリュウとはあの伝説の武道家の?」
ウェスが驚きの声をあげる。
「そうだ。そしてわたしの曾祖父になる。」
「えっ・・・」
モリスも意外な事実に心を痛める。
目の前にいる人の肉親を殺してしまったのである。
回りは許すだろう。
しかしモリスの落ち込む表情に気づいたヘルゼンは
「心配するな。むしろわたしは感謝している。
 はっきり言って、アンデルンはわたしの肉親とは思いたくない。」
と言うが、モリスはそれが本心なのか気になる。
ヘルゼンは続けて、
「アイリュウは一流と言われていた。
 確かに武道においては確かにそうだっただったが。
 しかし、それだけでは満足せず、魔法も使いたいと考えるようになった。
 その時に彼の耳に入ったのが戦闘教本の存在だ。
 アイリュウは世界中を旅をして回り、何とかその本を見つけだすのに成功した。」
「アイリュウが放浪の旅に出たとこの町では伝えられたが、そんな理由だったとは。」
ウェスが意外な事実に戸惑いを隠せないでいた。
それだけアイリュウという人物がここでは英雄だったのである。
「しかし、アイリュウはだいぶ老いていた。
 このままでは魔法を拾得する前に人生を終えることとなる。
 そう判断した彼は・・・」
「若返りと不老ですね。」
グレミオが答える。
「そうだ。
 教本のおかげでその2つは上手く行ったように見えた。
 しかし人間の体の無理な変化になど、なにも代償無しでは得られなかった。
 彼はわずかながらの魔力さえを失い、しかもいままで苦労して育んできた知識や性格
 なども失われていた。
 だが、運が良かったのか武道家としての能力だけは残った。
 生まれながらの天性だったのかもしれない。
 しかし、それが逆に彼を不幸にした・・・」
「それで、結果的にあのような・・・」
こんどは、モリスが答えた。
「ああ、完全に何かにとりつかれているような感じだった。
 この話はアイリュウの旅に一緒に付いていった、わたしの曾祖母が密かに書き残した
 ものだ。」
ヘルゼンは硬い表情のまま話した。
「そこまで人を変えてしまう戦闘教本とは、いったいなんなんだ・・・」
モリスにさらなる疑問が打ち付けられる。
「そうだ。これは君に持っていてもらいたい。」
ヘルゼンは1冊の本を差し出す。
「こ、これは!」
モリスは、黒く汚れている茶色の本をまじまじと見る。
「そう、戦闘教本だ。隙を見て持ってきたんだ。この本はここにあってはいけない。
 しかし君なら大丈夫と思うんだ。」
モリスは少し考えたが、
「わかった。」
と言って、本を受け取った。
確かにこの本には何かがとりついているような感触がした。
「そうだモリス、おまえに手紙が来ているぞ。」
ウェスがそう言って手紙を手渡す。
「えっ、オニールおばさんから?」
モリスは手紙がなぜ届くのか不思議に思ったが、オニールからだとなんとなく納得して
しまったのである。

 モリス元気かい?オニールおばさんよ。わたしにとってはおまえさんがどこにいるか
くらいすぐわかるわよ。とりあえず、前置きはこのくらいにして・・・

ちょっとおまえさん、大変なんだよ。
共和国が新たなる敵によって占領されつつあるんだ。
ちょっと遠いけどすぐ帰ってきてくれないかい?
詳しいことは戻ってから、わたしがいくらでも教えてあげるわよ。

                                  オニール

モリスの表情が険しくなる。
「どうしたんですか?坊ちゃん!」
「大変だよグレミオ!」
モリスは手紙をグレミオに見せる。
「えっ、そ、そんな馬鹿な!」
グレミオも驚きを隠せない。
「グレミオすぐに出発だ。ううっ・・・」
「ぼ、坊ちゃん無理はいけません!」
「そうは言ってられないよ。」
モリスは何とか起きようとするが、3日間寝ていたため思うように体は動かない。
「モリス、いまの状態で行っても迷惑になるだけだ。
 ちゃんと万全にしてから向かうのも戦いの基本だぞ。」
ウェスがモリスの肩を押さえながら言う。
「急ぐ気持ちも分かるが、あと1日休むんだ。」
「わかりました・・・」
心では納得がいかなかったが体は正直であった。モリスは我慢をする決断をせざる終え
なかった。

翌日

「師範、お世話になりました。」
「こちらこそおまえのおかげでこの町は生き返ったんだ。今度生き返った町を見に来て
 くれ。」
「はい。」
「そうだ、おまえにこれを渡さないとな。」
モリスはウェスからつつみを受け取った。
中には200000ポッチが入っていた。
「こ、これは!?」
「優勝賞金だよ。おまえは大会で優勝したんだぞ。ちゃんと受け取りなさい。急ぐ旅に
 は金が必要だ。」
「わかりました。ありがとうございます。ところでヘルゼンは?」
「彼は事件に直接関わっていないから、おとがめなしだが居づらいんだろう。
 今朝早く修行の旅に出ていった。」
「そうでしたか・・・。では私たちもそろそろ。」
「うむ、また会おう。グレミオもまたな。」
「はい、師範。お元気で。」
「じゃあ、グレミオ急ごう。」
「はい、坊ちゃん。」
ウェスの門下生からも声援が飛ぶ。
2人の姿は、あっという間に森へ消えていった。
「よし、今日がこの町の誕生日だな。」
ウェスはそう言うと、朝の修行のために道場へ戻っていった。

▽第8章「集いし仲間たち」
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