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秋に鳴く虫 スズムシの求愛行動 (きゅうあい こうどう)

鳴いて聞かせてプロポーズ 

スズムシ
羽化の翌日の成虫
「前ばね」を左右に動かして鳴いている♂

♂は孵化から約2カ月後に初鳴きします。
羽化した翌日、あるいは3-4日後に初鳴きする個体もいる。

スズムシが鳴く気温は、
およそ15〜30℃と、幅がありますが・・・
気温が15℃以下になると、ほとんど鳴かなくなります。


ハート形に「前ばね」を広げて「リーン・リーン」と、
鈴の音のように聞こえる鳴き声は、
口(くち)から声を出して鳴いているのではありません。

それでは、スズムシの鳴き声は、
いったい、どこから出ているのでしょう?
鳴いている♂を、横から見た「前ばね」。
体を前後に ゆさぶりながら鳴きます。
スズムシが鳴く しくみ = 発音のしくみ
「リーン・リリーン」と、美しい声でスズムシが鳴いているように聞こえるのは「前ばね」を こすっている音です。
1回、「リーン」と鳴くために、前ばねを40回以上も左右に動かしているようです。
「はね」を開くときは「右前ばね」を先に開きます。
「前ばね」に音の出る仕組み『発音器』がある。
スズムシの発音器の形態

「右前ばね」の裏側には、鑢状器(ろじょうき)と呼ばれる鑢(ヤスリ)状になった部分があり、
「左前ばね」の表側には、摩擦器(まさつき)と呼ばれるバチ状、ツメ状の部分があります。
2枚の「前ばね」を同時に左右へ高速で動かすことによって、鑢状器のヤスリと摩擦器のバチがこすれ合うため音が出る。
これがスズムシが鳴いているように聞こえる、音の出る仕組みです。

「左前ばね」のオモテ側の部分。
 右側に摩擦器(ツメ)がある。
「右前ばね」のウラ側の部分。
鑢状器(ヤスリ)は「はね」を横切る茶色の太い部分。
スズムシの摩擦器。
バチ・ツメ状の拡大写真
スズムシの鑢状器。
ヤスリ状の顕微鏡写真
「前ばね」の周縁部に囲まれている発音鏡室
さらに音を大きく...
左と右の「前ばね」には、薄くて固い、丈夫な膜でできている発音鏡(はつおんきょう)があります。

発音鏡を後ろから見ると(写真・右上)、「前ばね」の上と横が後ろに めくれて発音鏡 (膜)を囲んでいます。
この囲まれているところを、発音鏡室(はつおんきょうしつ)と いいます。

この発音鏡室は、ヤスリとバチが摩擦して出た音を、鏡室で発音鏡に響かせて(共鳴させて)、
さらに音を大きくするスピーカーの役目をしています。

音をより遠くへ
「前ばね」を立てることによって、音が「はね」に はね返って遠くまで伝わります。
♂が遠くにいる♀に「ぼくの お嫁(よめ)さんになってよ〜」と、
「さそい鳴き」プロポーズの声を伝えることができるのです。

♂の目の前に♀がいるときは、♀が食事していようが、羽化前の♀であろうが、♀に背を向けて、求愛鳴き(さそい鳴き)をします。あまり しつこい♂は、♀に「後ろあし」で蹴られることも.....。

鳴き方...

1. 求愛(さそい鳴き)
 「リリー・リリー・リリー」と、
 くり返し鳴くのは、求愛しているときです。
 スズムシの声 ムービーで求愛鳴きを聞こう!

2. なわばり主張や、威嚇(いかく)
 
「リー」と、短く鳴くのは、なわばり主張や威嚇。

スズムシのオスは気温が15℃以下になる前に子孫を残そうと、鳴いて(発音して)メスを呼んでいるのです。
繁殖期の♂は、♀をめぐって争う
求愛を妨害する♂もいます
複数の♂が、同時に鳴いて
盛んに求愛行動をする。
♂の背に乗り上げる♂
繁殖期は、♂同士の争いが頻繁に行われますが、殺し合う争いはしません。
♂同士の争いは、求愛中の♂に対して「君は求愛鳴きをするな」と、いわんばかりに、背や「はね」の上に乗り上げたり、蹴ったりする争いです。
求愛の邪魔をする訳は、♀とペアになって自分の子孫をのこしたいためです。
♀をめぐって真剣に♂同士が長い「後ろあし」で蹴り合う争い行動をします。
力の強い♂が、♀とカップルになれるのです。
スズムシの「あし」

スズムシは地上を歩いて生活するため「あし」は、強い「あし」に発達しました。
それにつれて「あし」の筋力も発達しました。
特に「後ろあし28mm」は、「前あし12mm」の2倍以上もあります。
その「後ろあし」は、蹴り合う武器や、ジャンプするときに使います。

スズムシはふだんはジャンプしません。 なかま同士の争い時や、天敵に気づいたときなど、身に危険を感じたときにだけ ジャンプします。
ふだんは、高い場所・低い場所などに移動するときも、歩いて移動します。
跳び下りたほうが速いところでも、わざわざ遠回りして歩きます。

♀のいない場所では、
♂同士は、おだやかに過ごします。
なぜ、スズムシの「後ろばね」は抜けるの?

昆虫には4枚の「はね」があるのに、
スズムシの「後ろばね」が抜け落ちるのは不思議ですね。

スズムシは地上を歩いて生活しています。
したがって、空中を飛ぶための「後ろばね」は必要ないのです。

スズムシは、空中を飛ぶのではなく、
長い「後ろあし」で高く(30cm以内)跳ぶのです。

「後ろばね」は、ふつう羽化後5〜7日ほどで抜けます。
なかには、成虫になっても抜け落ちない個体もいますが、
けっして奇形ではありません。

「左の後ろばね」が残っている成虫。
開いた「後ろばね」
飛び立つカブトムシ。
空中を飛ぶカブトムシなどは、
「後ろばね」が必要です。
抜け落ちた「後ろばね」
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