TOP PAGE


 
人と自然がバランスよく暮らしていくために

私たちの生活は、さまざまな生物資源の恵みを受けて成り立っています。
その生物は、毎日毎日、100種以上も絶滅に追いやられています。
私たちの子孫の代になっても、生物多様性の恵みを受けることができるように、
まず、動植物を絶滅の危機に追い込まないことが大切です。


地球上の生物の生息状況 ・生物多様性とは ・生態系とは ・生物の種とは
多様性生物資源の恵みを維持可能な利用  ● 絶滅種の数

豊かな四季と生物の国 --- 日本   ● 「新・生物多様性国家戦略」とは
生物多様性保全の現状 --- 3つの危機 (1. 開発・破壊、2. 里地里山の保全、3. 移入種の問題)
絶滅のおそれがある野生生物の種類 ・生物種の現状 ・浅海域の生態系の現状
生物多様性の保全をどう考えるか --- 4つの理念
植生自然度別の配慮事項  ・陸域の生態系の現状
3つの目標とアプローチの基本
私たちはなにをすべきか --- 7つの提案
1. 絶滅防止と生態系の保全  2. 里地里山の保全  3. 自然の再生  4. 移入種対策
5. モニタリングサイト1000  6. 市民参加・環境教育  7. 国際協力 ・東アジア各地の動植物数
国土のグランドデザイン --- つくりあげる国土のイメージ


このページのトップに戻る

● 地球上の生物の生息状況

今から約40億年前、地球上に生物が初めて誕生して以来、進化してきた生物は、
現在、3,000万種とも、それ以上ともいわれています。
自然が創った数えきれないほどの生物の世界を「生物多様性」といいます。

その多様な生物種が、ツンドラ、亜寒帯林、温帯林、熱帯林、草原、サバンナ、
砂漠、サンゴ礁など、南極・北極から熱帯、高山から海底・・・などなど、
様々な自然環境で、お互いにつながりを保って生きています。

生物が、地域の自然環境に適応して、つくっている生物社会を「生態系」といい、
それぞれの場所には、そこの自然環境に応じた生態系があります。
地球上の生物が多様なのは多様な生態系があるからです。

生物の種(しゅ)とは
生物学上、生物を分類する場合に基本となる単位のこと。
種を基準として、(界、門、綱、目、科、属、、亜種、変種)があります。
例えば、動物界-脊椎動物門-鳥類-スズメ目-セキレイ科-セキレイ属-ハクセキレイ-ホオジロハクセキレイ(亜種)

このページのトップに戻る

● 多様性生物資源の恵みを持続可能な利用

私たちの生活・衣食住は、生物からの恵みを受けて成り立っています

農業・酪農、養蜂などによって、お米、野菜、果実、肉、乳製品、蜂蜜...など、
漁業によって、海や川などから魚や貝、エビ、カニ、海草...などをとり、
林業によって、山・森林などから建材や家具、紙などをつくる木を伐採しています。
動植物から毛糸・・綿、皮革製品、化粧品、医薬品、燃料...などに至るまで、
多様な生物を利用することによって、私たちの生活が成り立っています。

また、多様な生物がすむ素晴らしい自然環境は、私たちの心に豊かな潤いを与えてくれます。
レクリェーション芸術の糧としても生物は、かけがえのない存在です。

しかし、人間の経済活動によって、熱帯林、湿原、川、干潟などの生態系が失われてきて、
近年、動植物が、いちじるしい速度で絶滅に追い込まれています。

このページのトップに戻る

● 絶滅種の数

恐竜時代は、1,000年間に1種、絶滅していたと推定。
人類が登場する以前は、3年から5年間に1種、絶滅していたと推定。
人類が登場して以来は、急激な速さで種の絶滅が進んでいて
1970年代は、1日1種が絶滅し、
1980年代は、1日50種以上が絶滅し、
2000年に入り、1日100種以上が絶滅している、といわれています。

生物種の絶滅の速さ
年   代
絶 滅 の 速 さ
 恐竜時代
1,000年
1 種
 人類が登場する以前
3年から5年
1 種
 1970年代
1 日
1 種
 1980年代
1 日
50種 以上
 2000年代に入って
1 日
100種 以上


すべての生物は、他の生物とお互いにつながりをもって生きていく役割をもっているので、
世界の生物種の約75%がいるといわれている熱帯林で1 種の生物が絶滅すれば
その生物に依存して生きている昆虫など、10〜30種の生物が絶滅の危機に陥ります。

人類が出現して以来・・・
地球が誕生して46億年、その地球の歴史を1年間に短縮してみると、
原始の生物が地球上に初めて誕生したのは2月中旬。
その後、生物は進化して哺乳類が登場したのは、ようやく12月の中頃になって。
そして、人類の出現は12月31日の午後4時30分以後になります。
最後に登場した人類は、他の生物との共有物である地球環境を造りかえ、繁栄してきました。

しかし、人間の活動が他の生物の生存を危うくしており、私たちの身近な自然も失われています。
その影響は、いずれ私たちの生活にも及ぶことになるのです。
動植物がすめない環境は、人間も生きていくことができない環境です。
私たちの子孫の代になっても、様々な恵みを与えてくれる生物を守る(保全する)ことをしなくては
ならないのです。 今、地球を救わなければ、未来の地球はないのです。

それでは、私たちに様々な恵みを与えてくれる生物多様性を守る(保全する)ために
どうすればよいのでしょうか

1995年(平成7年)10月、 国は『生物多様性国家戦略』を決定しました。
私たちの子孫の代になっても、生物多様性の恵みを受けることができるように、
まず、動植物の絶滅のおそれを生じさせないことなどを定めました。

このページのトップに戻る


● 豊かな四季と生物の国 --- 日本

 四季と共に生きる文化を育んできた日本には、多くの動物が棲み、さまざまな植物が息づいています。
現在、日本にいる生物に名前がついている生物だけでも9万種、
まだ発見されていない生物を含めると、20万から30万種になるといわれています。
 このような生物を開発などによって絶滅させることのないよう、「新・生物多様性国家戦略」が定められました。
人と自然がバランスよく暮らしていくための、わが国でただ一つの最も基本提案です。

このページのトップに戻る

「新・生物多様性国家戦略」とは

1992年、リオ・デ・ジャネイロでの地球サミット開催にあわせて、
「気候変動枠組条約」とともに「生物多様性条約」が採択されました。
この条約では、生物多様性を遺伝子生態系の3つのレベルでとらえ、
いずれも保全する必要があるとしています。

1980年代に、アマゾンなどの熱帯雨林が猛烈なスピードで伐採されました。
1年間に日本国土の4割くらいにあたる面積の森林が失われた、といわれています。
森林破壊は、同時に膨大な量の生物を絶滅させることでもありました。
(世界の生物種の約75%がいるといわれている熱帯林で1種の生物が絶滅すれば
その生物に依存して生きている昆虫など、10〜30種の生物が絶滅の危機に陥ります。)

種の絶滅に対する危機感から、地球上の生物種を保全するための国際的な対策が求められました。
これが「生物多様性条約」の結ばれた理由で、2002年3月現在で183カ国が加盟しています。
 

日本は、条約採択の翌1993年に加盟し、条約の規定に基づいて1995年に「生物多様性国家戦略」をつくりました。 
この計画を根本的につくり変えたのが「新・生物多様性国家戦略」で、2002年3月27日に策定されました。

このページのトップに戻る

● 生物多様性保全の現状 --- 3つの危機

 生物が地球上に誕生してから40億年、
生物は氷河期など環境のダイナミックな変化に対応しながら進化し、種を分化させてきました。
地球上に存在する生物種は3000万種、あるいは、それ以上ともいわれています。
 長い歴史の中で絶滅した種も数多くありますが、
わたしたちが考えなければらならない いちばんの問題点は
人間の行為が一方的に生物に影響をあたえ、絶滅までひきおこしている、ということなのです。


 日本の生物多様性の危機は、次の3つに大別されます。

第1の危機
 人間の活動や開発が、種の減少・絶滅、生態系の破壊・分断をひきおこしていることです。

捕獲・乱獲・採取による個体数の減少、森林の開発、埋め立てによる海の破壊
汚染した排水による生態系の破壊などが、これにあたります。
 日本に生息・生育する脊椎動物、維管束植物の2割が絶滅危惧種となっています。
最後の1羽となってしまったトキは、この典型的な例です。
ウミガラスも40,000羽から13羽に激減、絶滅の危機になりました。

第2の危機
 第1の危機とは逆に、自然に対する人間の働きかけが減っていくことによる影響です。

田園地帯の里山やススキが生い茂る草原は、薪炭材、肥料としての落葉、家畜飼料、
屋根葺きの材料などを得る場として、多くの利用価値をもっていました。

しかし、石油や新建材、科学肥料の登場によって、このような利用がほとんどなくなり、
里山や草原は管理されないまま放置されることになりました。
 長い年月、人手が入ることによって生物多様性のバランスを保ってきた里地里山は、
人間が干渉しないことによって、かえって危機を迎えているのです。
絶滅危惧種のほぼ5割は里地里山に生息し、わたしたちが昔から親しんできたメダカまでもが
絶滅の危機にあります。

第3の危機
進入種(外来種)や科学物質による影響です。

近年、マングース、アライグマ、ブラックバスなど、人間によって外国からもちこまれた種が、
地域固有の生物や生態系にとって大きな脅威となっています。
侵入種の影響は、幼体をミドリガメというミシシッピーアカミミガメや
マングースやブラックバスの場合は日本の生物種を捕食し、
タイワンザルの場合は在来種のニホンザルとで交雑種をつくり、
ノヤギの場合は植生破壊など、とさまざまですが、
絶滅危惧種には、これらの移入種による悪影響をうけているものが少なくありません。

 また、化学物質のなかには、PCB、DDT、ダイオキシンのように、動物に対して毒性をもつほか、
環境中に広く存在するため生態系生体内ホルモン作用への影響が懸念されているものがあります。

このページのトップに戻る

絶滅のおそれがある野生生物の種類

分 類 群
総 種 数
(評価対象数)A
絶 滅
絶滅危惧種
B
B / A
(%)

 哺乳類
48 
4 
 200 
24.0 
 鳥 類
 700 
13 
90 
12.9 
 爬虫類
97 
0 
18 
18.6 
 両生類
64 
0 
14 
21.9 
 汽水・淡水魚類
 300 
3 
76 
25.3 
 昆虫類
 30,000 
2 
139 
0.5 
 陸・淡水産貝類
 1,000 
25 
251 
25.1 
 クモ類・甲殻類等
 4,200 
0 
33 
0.8 
動  物  小  計
47 
669 

 維管束植物
 7,000 
20 
1,665 
23.8 
 蘚苔類
 1,800 
0 
180 
10.0 
 藻 類
 5,500 
5 
41 
0.7 
 地衣類
 1,000 
3 
45 
4.5 
 菌 類
 16,500 
27 
63 
0.4 
植  物  小  計
55 
1,994 
動 物 ・ 植 物 等 合 計
102 
2,663 
* 種には亜種・変種をふくむ


このページのトップに戻る

生物種の現状

● 日本の動植物は、知られているだけでも9万種以上といわれており、
  約37.8万平方キロメートルという狭い国土にもかかわらず、多様性に富んだ生物相がみられる。

● 大陸との分断・接続の歴史が固有種や遺存種など特有の生物種を形成しており、
  渡り鳥の行き来などを含め、とくにアジア地域とのつながりが深い。

● 海域についても、地形と海流などの特徴によって多様な環境が形成しており、
  同緯度の地中海や北米西岸に比べ、海産動物の種数が多く、生物相は豊かである。

● 近年、人間活動の影響によって、生物が生息できる環境の劣化・減少、
  また、自然に対する人間の働きかけの減少が引き起こす環境の質の変化、
  移入種(外来種)による影響などが、種の絶滅のおそれを増大させている。

● 平成13年7月までに改訂された環境省のレッドデータブック・レッドリストのうち、
  絶滅危惧種(絶滅危惧1類および2類)は、動物で669種、植物などでは1,994種となっている。
鳥類の絶滅危惧種(鳥類レッドデータ・リスト)

● 近年では、水辺や里地里山における生息環境の破壊や、人間の働きかけの縮小にともなう環境の
  悪化によって、絶滅危惧種としてメダカに代表されるような身近な種が多くあげられている。

このページのトップに戻る

浅海域の生態系の現状

● 日本は、総延長 約32,800kmの屈曲に富んだ海岸線をもち、
  海岸に続いて内湾を中心とした浅海域が広がって、そこには干潟、藻場、サンゴ礁がみられる。
  現在、自然海岸が約18,000km、干潟が約51,500ha、藻場が約201,200ha、
  サンゴ礁が約34,700haあり、沿岸域の生物多様性を特徴づける生態系となっている。

● 干潟は太平洋岸、瀬戸内海沿岸、九州に多く、
  とくに内湾に発達する干潟は、小動物の量、種数ともに多いことから、
  さまざまな沿岸性の魚類、シギ・チドリ類などの鳥類の重要な餌場、渡り鳥の中継地となっている。

● 藻場はアマモなどの海草類やコンブ、カジメ、ホンダワラなどの海藻の群落である。
  藻場は多くの魚のすみかとなるだけでなく、魚介類の産卵、育成の場である。

● 日本のサンゴ礁地形はトカラ列島以南にある。
  八重山諸島には、日本最大面積のサンゴ礁があり、この海域の造礁サンゴ類の種の多様性は世界屈指である。

● これら浅海域の生態系は、海岸線の人工化、埋め立てなどの直接改変や汚濁などの影響をうけている。
  高度経済成長期には、都市化や産業の発達にともなって海岸線の人工的な改変が急速に進められた。
  本土の自然海岸は5割を切り、昭和20年以降、埋め立て・干拓などによって約4割の干潟が消滅した。

● 最近では、埋め立てられる面積は減っているが、残された干潟やその近くでは、
  依然として埋立が行われている。

このページのトップに戻る


● 生物多様性の保全をどう考えるか --- 4つの理念

40億年の歴史を経てつくられてきた現在の生物多様性は、それ自体に価値があるといえますが、
ここでは、わたしたち人間と生物多様性の関係や保全の意味を整理し、4つの理念としてまとめました。

第1の理念
「人間が生存する基盤を整える」


 地球上の生物は生態系という一つの環のなかで深くかかわりあい、つながって生きています。
そして二酸化炭素の吸収、気温湿度の調整、土壌の形成、水源の涵養(かんよう)= うるおし、やしない
などさまざまな働きをして、人間という存在にとって欠くことのできない環境基盤を整えているのです。

第2の理念
「人間生活の安全性を長期的、効率的に保証する」


 生物多様性を保全する観点から、自然性の高い森林をまもり、無理な開発を避け、
人工林の管理水準を高めていくことは、水源地を汚染することなく安全な飲み水を提供することや、
災害をしばしば未然に防ぐことにつながっています。
これは30年から50年先、さらには世代を超えて人間生活の安全性を保証することになります。
長い目で見れば、もっとも効率的な方法であるのです。

第3の理念
「人間にとって有用な価値をもつ」


 わたしたちの生活は、農作物などを食品として利用するだけでなく、多様な生物を工業材料、医薬品、
燃料などに利用することによって成り立っています。
バイオテクノロジー(生物が持つ遺伝子を人が操作して新しい特徴をもった生物を生み出し、食品や医薬品などの製造に役立てる技術)
さらなる技術進展によって、あらたな医薬品や食料開発などに役立つ可能性もあります。
 こうしたことは、社会・経済・科学に、そして、さらに多様な生物を育む自然は、教育・芸術・
レクリエーションなど、人間にとって有用な価値の源泉となります。

第4の理念
「豊かな文化の根源となる」


 日本人は、自然と順応してさまざまな知識、技術、豊かな感性や美意識をつちかい、多様な文化を形成してきました。
自然と共生する社会、ライフスタイルを築くためには、こうした知識や技術を学ぶことが必要です。
 地域によって生物多様性が異なれば、これに根ざした文化も異なります。
多様な生物や文化は地域ごとの固有の資産であり、今後の地域活性化を成功させるためにも重要な鍵となるでしょう。

このページのトップに戻る

植生自然度別の配慮事項
陸域の生態系の現状

● 植生自然度は、植生に対する人為的の度合いによって、日本の植生を10の類型に区分したもので、
  長年にわたる人と自然とのかかわり合いのなかで、形づくられてきた自然環境の現状をあらわしている。

● 自然林や自然草原などの自然植生は、
険しい山岳地、半島部、離島といった人の手の及びにくい地域を中心に分布している。
  生地、丘陵、ゆるやかな山地などでは、二次林や二次草原といった自然林(一次林)が失われたあとに
  できた代償生や植林地、耕作地の占める割合が高くなっており、
  大都市の周辺では、市街地など、まとまった緑を欠いた地域が広がっている。
  国土全体では、自然性の高い植生は限られた地域にしか残されていない。

● 自然林と二次林が占める面積は、昭和30-40年代に激減したが、近年では減少傾向は鈍くなっている。
  人為が加わっていない自然林は、国土の17.9%しかない。
さらに、ひとつ一つの森林の面積は減少しており、生息地の分断化が進んでいる。
また、人工林や二次林の手入れ不足による荒廃などによっても野生生物の生息、
生育環境の質的な悪化が懸念されている。

● 草原は、高山・亜高山帯および海岸の自然草原と、火入れなど人為的な干渉のもとで維持されてきた
  二次草原の多くは、二次林と同様、利用されなくなり十分に管理されなくなったため、遷移が進行した。
  オオウラギンヒョウモンやハナシノブなど、かつては普通に見られた草原種の一部は、
  急激な減少が懸念されている。

● おもに市街地・造成地などからなる市街地では、野生生物の種数が少なく、自然環境が質量ともに乏しい。
  近年、地域によっては、生物生息空間(ビオトープ)となる自然環境の整備などによって、
  生物多様性の質を高める取り組みが進められている。

● 今後は、国土全体について、生物多様性の観点から植生自然度ごとにその質を高めていく配慮が必要である。

このページのトップに戻る

● 3つの目標とアプローチの基本

 人間は地球上の生物、生態系の一員ですが、大量のエネルギーを消費して自然界に大きな影響を及ぼすなど、
 他の生物とは決定的に異なる存在でもあります。
 近代化にともなう人間活動の急激な拡大は、環境の悪化を招き、人間そのものの存在すら脅かすようになりました。
こうした脅威を除き、現在、そして将来にわたって「自然と共生する社会」を実現していくための目標として、
「新・生物多様性国家戦略」では、次の3つを掲げています。

1. 各地固有の生物の多様性を、その地域の特性に応じて適切に保全すること。
2. とくに日本に生息・生育する種に、あらたに絶滅のおそれが生じないようにすること。
3. 世代を超えた自然の利用を考え、生物の多様性を減少させず、維持可能な利用を図ること。

 これらはいずれも、いますぐに着手しなければならない課題であり、同時に達成するには長い期間を
必要とする課題でもあります。いま・なにを、どういう態度で行うべきかについて、
2000年の生物多様性条約締約国会議で合意された「エコシステムアプローチ」は、次の2点を強調しています。

第1に、人間は、生物・生態系のすべてを、わかり得ないことを認識の基本として、
    つねに謙虚に慎重に行動すること。

第2に、生態系は複雑でつねに変化し続けていることから、
その管理と利用は、モニタリング調査などの結果に応じて柔軟に行うこと。

生息数が減少してしまった種は、積極的に保護増殖の対策を進め、
数が増え過ぎて生態系や農林・水産などに被害が生じている場合には、被害を防ぐ対策が必要となります。
これらの対策を進めるためには、それ以外の種も含めた生息状況を把握するためのモニタリングが重要です。

例:保護増殖のアホウドリ、ウミガラス、シマフクロウなど。 被害防止対策のカラス、シカなど。

このページのトップに戻る

● 私たちは、何をすべきか --- 7つの提案

「新・生物多様性国家戦略」では、今後5年の計画期間内に速やかに着手し、着実に推進しなければならない、
次の7つを提案があります。

このページのトップに戻る

1. 絶滅防止と生態系の保全

・絶滅のおそれのある種については、生息環境の改造や増殖などによって、その個体数を回復させるための
 取り組みをさらに進め、また、身近にみられる種が絶滅に向かわないよう、地域指定などの予防的対策を進める。

・重要な森林や、さまざまな影響をうけやすい干潟などの湿地については、生態系を守るために十分な規模と
 適切な配慮の保護地域を設け、こうした保護地域を中心に森林や水系の連続性を保つなど、
国土全体で生態系のネットワークづくりを進める。

このページのトップに戻る

2. 里地里山の保全

・奥山地域と都市地域の中間に広がる里地里山は、国土の4割を占める。
 水路や溜め池、里山林や田畑など、人間と自然のかかわりがつくり出した変化に富んだ自然環境をもつ
 里地里山は、絶滅危惧種の5割が生息する生物多様性のうえで重要な地域である。

・里地里山は、農業など生産や生活と深くかかわって成立しているので、地域住民やNPOも参加した
 里山再生事業の実施、里山管理協定制度の推進など、地域の実情に応じたきめ細かい対策を強化する。

このページのトップに戻る

3. 自然の再生

・開発によって破壊されつつある国土の生態系を健全に甦らせていくために、
 損なわれた河川、湿地、干潟、里山などの自然を積極的に再生、修復する自然再生事業を進める。
 都市においても、100年がかりで大規模な森をつくっていく。

・自然再生事業は、開発の際に損なわれた自然環境を単純につくり出すといったことではなく、
 それまでの人間による影響をていねいに取り除き、過去に失われた自然を取り戻すことを通して、
 地域の生態系が自己回復できる活力を取り戻すための事業である。

このページのトップに戻る

4. 移入種(外来種)対策

・国境を越えた人、物の流れが急増するにともなって、移入種問題が生物多様性保全への新たな脅威となっている。

・すでに着手しているマングースなどの駆除事業を着実に実施していくほか、生物輸入の抑制を図るなど
 国内侵入への積極的な予防、移入の初期段階での発見と対応、要注意生物リストの制作やペット管理の強化などを図る。

このページのトップに戻る

5. モニタリングサイト1000

・生物多様性を体系的に保全していくためには、「緑の国税調査」など、自然を科学的・客観的に把握
 するため行っている調査の充実が急がれる。

・より質の高いデータを継続的に収集し、将来を見通した積極的な保全施策を進めるために、
地域の専門家やNPOとネットワークをつくりながら、全国1000カ所程度のモニタリングサイトを設けて、
 長期的なモニタリング調査を開始する。

このページのトップに戻る

6. 市民参加・環境学習

・複雑多岐にわたる生物多様性の保全を有効に進めるためには、市民・住民、地方自治体、NPO、研究者、
 企業など、さまざまな参加者が取り組めるための仕組みづくりが重要である。

・里山保全、自然再生事業におけるNPOや住民参加を積極的に進めるほか、インターネットの利用もふくめ、
 情報を広く公開し、情報共有のための条件整備を進める。
 さらに、学校から社会、都市から自然地域までさまざまな場や機会に、環境教育・環境学習を推進する。


● 生物多様性保全に果たす 自然教育の役割 ●

保全のための活動








 理 解 ・生物の種類
     ・生物たちのつながり
     ・自然のしくみ
     ・人と自然のかかわり
      自然教育
自然とのふれあい
 


このページのトップに戻る

7. 国際協力

・日本の社会経済活動は、世界と密接な関係にあり、地球環境にも大きく影響を及ぼしている。
 渡り鳥や海棲動物が行き来し、地理・歴史にもつながりが深いアジア地域は、生物多様性保全のうえでも
 とくに密接な関係にある。日本がこれまでつちかってきた知識・技術を活かし、
 アジア地域を中心に積極的に国際貢献することが重要である。

・とくに、熱帯林、サンゴ礁、湿地、渡り鳥など、生物多様性の重要な構成要素にかかわるモニタリング、
 保全のための取り組みに積極的に参加協力していく。

このページのトップに戻る

東アジア各地の動植物数  (東アジア各国のうち、地史・地理的に日本と関係の深い国や種数の多い国を掲載)

国  名
面 積
(万I)
森林率
哺 乳 類
鳥  類
両 生 類
高 等 植 物
種 数
固有種
割合(%)
繁殖数
固有種
割合(%)
種 数
固有種
割合(%)
種 数
固有種
割合(%)
日  本
37 68 188 22 250 8 61 74 5,565 36
インドネシア
182 60 457 49 1,530 27 285 40 29,375 60
フィリピン
30 23 158 65 196 95 92 79 8,931 39
中  国
933 14 400 21 1,103 6 290 54 32,200 56
イ ン ド
297 22 316 14 926 6 209 58 16,000 31
韓  国
10 80 49 0 112 0 14 0 20898 8

ヨーロッパ各地の動植物数

国  名
面 積
(万I)
森林率
哺 乳 類
鳥  類
両 生 類
高 等 植 物
種 数
固有種
割合(%)
繁殖数
固有種
割合(%)
種 数
固有種
割合(%)
種 数
固有種
割合(%)
イギリス
24 8 50 0 230 0 7 0 1,623 1
フィンランド
30 67 60 0 248 0 5 0 1,102 -
フランス
55 27 93 0 269 0 32 9 4,630 3
ド イ ツ
35 31 76 0 239 0 20 0 3,632 0


● アジア東部の生物相は、同じくユーラシアに属するヨーロッパと比べて比較的豊富で、多くの種がみられる。
  これは、さまざまな気候帯を反映して、さまざまな植生環境をふくむこと、熱帯があることなどが要因。
  また、氷河期に、北ヨーロッパではアルプスという東西に長い障害があったため、移動できずに絶滅した種が
  多く存在したが、ヒマラヤ地域を除くユーラシア東部ではそうした状況がおこらず、多数の種がみられること
  になったと考えられる。
  動物地理区からみると、旧北区、東洋区、一部はオーストラリア区に属し、
  植物区系では全北区系界および旧熱帯区系界に属している。

● アジア各国の種数をみると、おもに熱帯に位置し、多数の島嶼(とうしょ)= 大小の島々からなるインドネシアや、
  面積が広く、湿潤から乾燥、低地から高山など、さまざまな環境をふくむ中国、
インドなどで多くの種が記録されている。
  固有種の割合は、インドネシア、中国、インドに加え、フィリピンと日本で高い。
  島嶼と大陸を比べると、おおむね島嶼において固有種の割合が高い。

● 日本の生物相の特徴は、固有種の割合が高い点にある。
  両生類の74%を筆頭に、他種群でもこの傾向にある。

  その理由として、日本の国は南北に細長い列島で多くの島々からなる島国であり、特有の生態系があります。
  北は亜寒帯、南は亜熱帯の気候に属し、 針葉樹林からマングローブ林まで多種多様です。
  また、標高差が大きく地形が複雑であるため、種の分化が多く生じ、遺存種が多くたもたれた。
  日本は森林率が70%と高く、さまざまな森林性動植物が生息・生育している。
  特に、沖縄や奄美大島などの南西諸島は、イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナ、アマミノクロウサギなど、
  その地域特有の生物が多い地域です。

このページのトップに戻る

日本の未来
● 国のグランドデザイン --- つくり上げる国土のイメージ

「新・生物多様性国家戦略」に掲げられた「グランドデザイン」とは、
国土を単なる土地の広がりとして とらえるのではなく、
地下から空中、地下水、海洋まで、そして土壌の微生物から空を飛ぶ鳥までを国土としてとらえ、
将来像を示そうとするものです。
 こうした将来像を、100年、200年がかりでつくり上げていこうというのが「グランドデザイン」の
呼びかけていることです。 最後に未来の国土のイメージを描いてみます。

1. 自然が優先される地域として奥山・脊梁山脈地域、人間・人間活動が優先する地域として都市地域があり、
  その中に、人間と自然の関係が新しい仕組みで調和した地域として、広大な里地里山地域が広がっている。

2. 道路、河川、海岸などの整備が生物多様性・緑の回復のための縦軸・横軸のしっかりしたネットワークとして
  位置づけられ、奥山、里地里山、都市を結んでいる。

3. 住民・市民が、自分の意志と価値観によって生物多様性の保全・管理、再生・修復に参加し、
生物多様性がもたらす豊かさを享受し、そうした行動を通して新しいライフスタイルを確立している。

4. 数千、数万kmも離れた遠い国から飛んできた鳥たちが、そこ、ここの森や干潟で遊び、餌をついばむ。

5. 北の千島列島や赤道近くから流れてきた海流は、豊かな生命を育んで大漁をもたらし、
  子どもたちは潮干狩りや磯遊びに目を輝かせる。
南の島のサンゴ礁には鮮やかなさまざまな魚が群れ、青々と茂る海藻の間をジュゴンの群れが過ぎていく。

6. 奥山だけでなく里地里山、都市にも巨木がそびえ、大都市にも大きな森があり、猛禽類が悠々と空を舞っている。

7. 都市、町や村に、生き物たちのにぎわいがあり、人々は生き物たちとふれあいを通して生活のにぎわい、豊かさを感じる。


「新・生物の多様性国家戦略」を基に制作




Home
Contents


Nature Photo Gallery = S.Ochi`s HomePage に掲載の写真・記事の無断転載を禁じます。
すべての著作権は、越智 伸二に帰属します。
Copyright(c) Shinji Ochi. No reproduction or republication without written permission.